男子フリー・終了【高橋大輔】

とてもとても楽しみにしていた五輪の男子シングルの演技が全て終わった。
やらなければいけないことがあって、それはとても重要なことで、今回は仕方ないから録画して夜観よう、なんて思っていたのにまったく我慢できなかった。
競技を見ている時にはいろいろな思いが溢れ出てしまい、終わってからも狐につままれたような、あらゆることに実感が湧かないような、そんな感じだった。

夜、稽古からの帰り道入ったお弁当屋さんのテレビに、高橋大輔が映っていた。フィギュアスケートを始めた頃の話、ご両親の話、今日のインタビュー、テレビに映る情報を眺めているうちに、突然実感が湧いてきた。

高橋大輔の復活を待っていた。フィンランディア杯での優勝を、ニュースで観て嬉しかった。あらゆる映像を観ては、早く生で観たいと思い、わくわくしていた。NHK杯で観た高橋大輔に泣いてしまった。お帰りなさい!と心の中で言った。カナダ大会でファイナル出場を決めた時は、ネット中継を観ながら手を叩いていた。
グランプリファイナルのショートを生で観て、もうこれ以上素晴らしいものなんてこの世に存在しないんじゃないかと思うくらいの美しさに、スタンディングオベーションをしていた。そしてもう一回、お帰りなさいと言った。
フリーを生で観られなかったことを、いつまでも悔やんでいた。
全日本選手権高橋大輔に痺れた。
それからの2ヶ月間、他の国の国内選手権や欧州選手権を観ながら、早く高橋大輔が観たくて、観たくて観たくて。

五輪のショートはあまりにもショックな・・・いや、ショックなんて言葉じゃ足りないような、絶望的な、悪夢としか言いようの無い、今までとこれからのフィギュア観戦の中でもおそらくここまでひどい出来事はそうないだろうと思うような事態に動揺して、あまり気合を入れて観られなかった。
正直、日本選手たちのことが考えられなくなるような悲しみに襲われていた。

そして二夜明けた今日のフリー。
最初の四回転での転倒は、四回転と認定されることも無かった。でも、立ち上がった高橋大輔の幸せそうな顔を観ただけでもう涙がそこから止まらなかった。
満ち足りた顔で、優しくあたたかく、厳しい道を進む高橋大輔の演技が胸に迫って、たまらなかった。
もっと良いできの演技だってあった。
生観戦で、これ以上の喜びは無いと思った。

でも今までで、今日が一番私は幸せだった。
パン&トンの、フリーでの完璧な演技を観た時と同じような、もう、いいや。私はこれだけで満足だ、と思わせてもらえる演技。