振り返り・人物と演者のこと①

登場人物、そしてそれを演じた役者について思ってることなど書いてみる。

初演の時と台本的に変更したところがあればそれも含めて。

 

山上(考古学者) 江戸川良

【初演】秋野を事故に遭わせて責任問題で続けられなくなったけど自分は考古学が好きだからこれからもやるぜ!世間の目なんて知ったことか!みたいに自己完結してた強い人。

【再演】秋野と一緒に発掘した日々が楽しすぎたがゆえにそれを失ってからは気力を無くして…秋野くんは前に進めるみたいだけど私はもうバイトしながら考古学やるような元気残ってなくて無理です…みたいな、ちょっと切ないフツーの人。

 

初演の時は報われない天才考古学者みたいな扱いだった気がする。

再演バージョンはちょっと情けなさすぎるだろうかと躊躇して稽古が進む中でもけっこう迷って、江戸川さんに注文つけてはやっぱり元に戻そうみたいに振り回してしまった。年をとっても元気な人がいる反面、疲れて休みたくなる人も。私自身含めそれはそれはたくさん見ているので現実的ではある。

超人じゃなくてもいいじゃないね。

 

とはいえ江戸川さんは12年ぶりなのに山上のことをよく覚えていて、もともとあった情熱も大事に表現してくれた。今回の台本だけ見ると考古学への思いが薄くなっちゃってた気がするのでありがたい。相変わらず「何も考えず適当にやってるだけです」とか言いやがるのがもはや腹立つレベル。抑えずストレートに感情を出す芝居するの珍しかったな。

あとこれはいつもそうなんだけど、江戸川さんがバリバリにカッコ良いので稽古場で見惚れちゃって困る。ただでさえ芝居がいいのに顔までカッコいい。困る。

困るので照れ隠しに当たりをキツくしてしまって周囲によく窘められた。照れ隠しで役者にキツく当たる演出家ってなんだよ。ギャグか。

砂の底で秋野と2人で語る場面が特に良かった。役者江戸川良が楽しそうで。

 

秋野(山上の助手)今村貴登

【初演】人柄の良い優等生タイプ。神の手を持つ天才。なんだこのキャラ設定。

【再演】特別な才能があると山上は言っているが、それは山上の贔屓目なのかもしれないと思えるような描写に変更。いい子ちゃんタイプでは無くした。

 

初演の時の山上と秋野のキャラは実にいけすかなくて、周囲の人たちそっちのけで2人でいきなり「俺たちだけが理解できる高レベルトーク」を始めるような連中だった。

脚本を直しながらコイツらつまんねー奴だなと思って試しに二人きりの場面で言いたいこと言わせてみて、そのセリフを今村くんが読んだらアラ不思議。びっくりするくらい魅力的で面白くて、これだ!となった。すごく素敵な役になった。

秋野は主人公の相手役の割にセリフも少ないしパーッとアピールする場面も無く、それでいて特別な存在感を出さなきゃいけないので難しい役なのだけど。今村くんは行間を埋めるのもとても上手で、セリフの有る無しに関わらず達者な芝居ができる役者なので助かった。

なのに何故か「達者じゃない芝居をしろ!」と私に要求されたせいで稽古期間いっぱいまでおそらく苦労したと思われる。私がもっと上手い伝え方をすればもうちょいすんなり意思疎通できた気がする。まあいいか。回り道も迷い道も長い目で見れば無駄では無いはず。演出家って勝手だなあ。

ところでこんな小悪魔的なキラキラ秋野くんをやれる小劇場の役者ってなかなか稀有だと思うのですよ。見た目が奇麗でも身に沁みついた薄暗さや貧乏くささが消せなかったりするじゃない?さすがに偏見か。

いや可愛かった。すごく可愛かった。稽古場でも思わず口をついて出たよ、可愛い!って言葉が何度も。本人もわざと可愛く振舞ってくれてたし。いやー可愛かった。お客さんにもその可愛さというか眩しさが伝わったから贔屓目じゃないはず。いや可愛かった。あと個人的に声がとても好き。今まで言われたこと無いって言ってたけど嘘でしょ。

 

実は今村くんは、もともと出る予定では無く急きょ出演依頼したのだ。

若い男性の出演者集めに難航して、時間の迫るなかようやく数が揃ったのだけど。

そのタイミングでsalty rock(河原撫子を演じた伊織夏生の主宰劇団)の芝居を観に行った私は、

(この子いいなー。これだよなあ、私の秋野のイメージって。秋野っていうか、メインで舞台に立ってて欲しいタイプだよなー。いいなー。でもまあ出演者はもう全員決まったことだしこんなこと考えてもしょうがないけど)

と今村くんを見て密かに思っていたのだった。その後なんと一人の男の子がスケジュールの都合で出られなくなってしまい、やばいよやばいよと困り果てて伊織に相談したところ紹介してくれたのが今村くんだったのだ。

スケジュール的に受けてくれる可能性低そうだったし実際に私の台本を読んでもらわないとハマるかどうかわからなかったけど。

幸いオファーを受けてくれて、当初私の思っていた配役でバッチリはまってくれて。平静を装いながらもめちゃくちゃ嬉しかったよあの時は。

なんか、めぐりあわせってあるんだなーと。ありがたい。本当にありがたい。

 

流砂に飲まれる場面で今村くんがアドリブで助けてって言ってたんだけど、すごく可哀そうで可愛かった。っていうか為す術が無い感じが出て怖かったわ。あとラストシーンは稽古場で毎回違う芝居をしてたけどどれも良かった。全部のバージョンをお客さんに観てもらいたいくらい。

 

オミナエ(清掃員)かわぐちまこ

【初演】掃除が好きでプライド持って働いている人。ちょっと怖い。

【再演】適度にいい加減で人の懐にするりと入っちゃう人。怖いけど情も深い。

再演で怖さが激減したのは、台本直し作業中に観に行った舞台でまこちゃんが演じてた朗らかで楽しいお母さん役があまりに魅力的だったから。観たものにすぐ影響受ける。

影響受けたせいで愛嬌マシマシになったけど、思い直してガミガミをちょっと増やした。学生時代は浮いてたのかなみたいなエピソードも付け足した。クラスの人気者みたいなポジションで人生を歩んで来た人だったら、いくら自分が痛い目みてもここまで弱者に寄り添えるようにはならないんじゃないかと思って。これこそ偏見だな。そういうステキな人もきっと世の中にはいるでしょう。ただ私の芝居ではそういう人は取り扱わないかな。

「オーガッタジャ!」の時もそうだったんだけど、どうしようどんな役にしよう…って見切り発車で稽古始めても、なんとなくいつの間にかまこちゃんがいい感じの役に落ち着けてくれる。もちろんいくつか注文をつけたりはしたけれど、私はただワクワクして見守ってるだけで良い。

「借金があるの。なんでだかわかる?…男」って、ただそれだけ書いておけば、それ以上何も言わずとも多くを語らずともお客さんが全て想像して納得してしまうような、そんな芝居に着地してくれる。

もともとオミナエは強くてカッコいい役ではあったけれど、強さにもカッコよさにもいろいろあるんだなあ!っていうのを深く感じた今作の芝居だった。

そして情の深さよ!オミナエが全員の身の上話を全て訊く役どころになってたけど、台本では特に聞いてないつもりで書いてたのよ。それをまこちゃんはオミナエが全て聞くことを選んでくれたのよ!そっれが最高に良かった。聞いてる時の表情も本当にすごくいいんだよね。さりげないけど印象的で、まったく己をアピールする様子を感じさせない居方。

あとねえ…今回は砂漠を歩き回る芝居だったんだけど、オミナエの息遣いが実に良かった。本当に悲壮というか、絶望すら感じさせるような。息遣いイイですよね、とか言うとあまりに気持ち悪すぎるから誰にも言わないでいたけど。

 

ラストシーン。最後の山上とのやり取り。私が想定してたのと全然違うやり取りになってて愛らしかった。

あとはやはり桔梗田の身の上話を聞いてる時の静かな芝居がたまらんかったです。その後の笑い声で毎回私は泣いていた。オミナエカメラを設置してオミナエの芝居を全て追うべきだった。

オミナエ好きだ。楽しかったなあ。ああ好き。

 

桔梗田(名前のわからない男)加茂克

劇中で唯一名前を呼ばれない人。仲間がいないからなんだけど、その割にみんなとよく喋った人。ちょっと寅さん風な役どころかな。お節介で口ばっかりなところとか。

【初演】日当たりに執着する男。裏設定だと向かいに三階建てのアパートが建ったせいで自分の部屋の日当たりが悪くなったことに切れて放火した前科者だけど、本編では特に何があったか語られず。初演だと河原と一緒に過ごす場面も無かった。何も無い役じゃないか!

【再演】ハンバーグでいうところのつなぎのパン粉みたいな役どころ。便利。

 

「オーガッタジャ!」では主人公としか絡まない役だったので今回はたくさんいろんな人と絡めて良かった。髪型は美容院でちょっと前の佐藤健くんにしてくださいとオーダーさせた。

 

文字数も嵩んできたので加茂克の話はこんなもんでいいか。今さら語ることも無いし。

ただ、私は加茂克の芝居が好きだ。セリフ覚えも悪いし不器用だしポンコツだし稽古場でホント心底ブチ切れそうになることもしばしばあるけど、私は加茂克の芝居が好きだ。私にはできない、ほかの誰にもできない加茂克の芝居が面白くて、それで私は今も芝居をつくっているのだ。加茂克の芝居を観たい、それこそが発条ロールシアターを続けている理由なのだ

 

②につづく