自己紹介します

演劇関係以外の場所では、お芝居やってますと簡単に名乗る。そうすると大抵は演じ手だと思われるので、余程興味無さそうにする人以外には、
「自分でもちょっとだけ出演するけど創る方がメインです」
と、わざわざきっちり付け加える。
人によってはもうちょっと関心を持ってくれて、「創るっていうのは…」と突っ込んで聞いてくれることもある。その場合には「脚本を書いたり演出したりしてます」
と、言う。
一般的に、演出より脚本の方がピンと来るかなと思うので、脚本を先に言う。

パンフレットやチラシの記載も、「脚本・演出」と、わざわざ二つ載せている。
別に演出だけでもいいんだけど、この作品の本を書いたのは自分ですよという責任的な意味で。

いや、責任だけってことはないか。一応まあ自分の生み出したキャラクターや物語やセリフに愛着が無い訳では無い。これを書いたのは私である、ということはきちんと名乗っておきたい。


ちなみに発条の作品は全て加茂克が原案を考えているので、私は「作」ではなく「脚本」と名乗っているのだ。

原案というのがどの程度のものかというと時によりけりなのだけど、例えばどこを舞台にするかとか、何をモチーフにするかとか、何をテーマにするかとか。

例えば昨年の「パソドブレ」では、「築50年の風呂無しアパート」「心の旅に出ている大家の婆さん」「226の将校がやってくる」「無気力な主人公」「先輩や隣人など、ろくでもない来客」などなど、作品を構成するほとんどの要素は加茂克の原案ノートから来ている。
またその前の「ソンデネヴァ!」では、「東北の無人駅」「アイヌ民族」「部族間の戦い」という、これも重要な要素が出ているが、パソドブレと違ってストーリーを構成するものはあまり作品に反映されていない。しかしこれはもう、キーワードだけでもものすごく私を刺激してくれたので、加茂克の原案なくしてこの作品は生まれてないと思う。
3つのお題をもらいそれを使って物語を作る、みたいなのがあるけれど、そういうものに近い。

ラブホテルインブルーはちょっと変わっていて、まず私がやりたいテーマを伝えて、それを元に加茂克が素材を集めてきて、その用意された素材を使って私が脚本を書いたという、企画段階でのやり取りが多かった。

発条を始めて間もない頃は加茂克の出した原案をなるべくきっちり脚本に入れ込もうとして話し合いをしたりしていたのだけど、どうもそれだと私と私の書いたものとが寄り添わないことがあったので、途中からやめた。そんでもって原案は「ゼロ」として、その先の1から100までを私が創る、という風に割り切るようにした。これって正しい原案の役割だわね。
最初のうちは原案と言うより原作に近い扱いをしていたかもしれない。これだと自分が何に向かって何を求めて台本を書いてるのかわからなくなることも多かったのだ。

今では(というか4〜5作目くらいからは)作品についての話し合いはほとんどしなくなった。加茂克が言葉で意味を語り合うのを嫌うのだ。
相談に乗ってくれない加茂克に腹を立てていたのだけど、今は私もようやくそれが理解できるようになった。
言葉で打ち合わせると結局脳みその仕事になってしまう訳で、脳みそはひとつだけの方が具合がいいのだ。

ゼロは物事の始まりなので、とても重要だ。種が無いと芽が出ない。
自分から生まれた種はやっぱり自分の一部であるからして、私のように未熟なものが生むと種への思い入れが強くなり過ぎてしまう。そうして作品全体に自分が出過ぎてしまうので、あまり面白くないのだ。
人からゼロの部分をもらうやり方が私は気に入っている。
ゼロから作れてこそ作家?ああ、まあそうかもしれない。
でも、なんだっていいんである。作品が面白ければそれで。


それはそれとして結局のところ、自分が一番やりたいのは「演出」なんである。
自分の創りたい作品なので脚本も書くけれど、別に無きゃ無いでいいんである。
自分のやりたい本があれば、それを演出するだけの話なのである。
細かいことはどうでもいいんである。


ところで素直に自己紹介すると
「演出家です」
となるのだろうけれど、これはこれで何かこっ恥ずかしい。
「演出をやってます」と、「演出家です」の間にはなかなか越えられぬ大きな壁があるらしい。

私は「演出やってます」くらいでもいいやと思うんである。この辺にこだわってる時点でまだまだ言葉に振り回されてるんだから。


しっかし、あんなノータリンみたいな顔していながら加茂克は賢いんである。思考も生き方もあらゆることが私の遙か先を行ってるんである。
逆に私は全知全能であるみたいな顔で威張り散らしてる割に、てんで幼稚なんである。
加茂克が6年前に創った「パソドブレ」だって、私が自分の作品にすることができたのはようやく去年の話なのだ。

そういやラブホテルインブルーの稽古で、加茂克に「知能が低すぎる」というダメ出しをした。あまりに知能の低そうな顔してたのでつい出てしまったのだけど、そんなダメ出し生まれて初めてした。これからもそうは無いだろう。

そんなダメ出しの甲斐もなく、本番を観たとあるお客様から「白痴系」と褒められていた加茂克である。凄いなそれも。