声のはなし

聞いてるだけで気持ち良くなる声というのがあります。
例えば家弓家正さんの声は、もうどこからどう聞いても2枚目です。大好き。言わずと知れたナウシカのクロトワの声です。
内海賢二さんの声も気持ち良いです。アラレちゃんの則巻千兵衛ハカセの声を初めて聴いた時は、「なんでハカセの声こんなにかっこいいの!」と子供ながらにときめいたものです。

どうでもいいことですが、幼少時はオジサマ好きで、大学生くらいから年下好き傾向が始まり歳を経るにつれエスカレートしていき、40を前にして年下好きとオジサマ好きを両立できるようになりました。下は20歳から上は60歳くらいまでいけます。相手が私をいけるかどうかは知りませんが。
ただし同級生くらいの年齢(前後2〜3歳くらい)の人だけは、仲間意識の方が先に芽生えちゃうのか滅多に恋心にならないんだよなあ。

さて、気持ち良くなる声というのはなんだか本能を刺激されてる気がしますが、それとは別に、なんだか好きな声というのがあります。
必ずしも美声とは言えない、なんかちょっと引っかかりがあるような声。
例えばごく身内で言うと、発条の主宰の加茂克の声とか。少し間が抜けたような、低い部分と高い部分の絶妙なバランスが好きです。
面白い声っていうのかな。好きです。

少年ぽい声も好きです。あまり太くなくて、ちょっと不安定な感じの声。
例えば、ナウシカのアスベルとかもののけ姫のアシタカをやった松田洋治さん。もちろんこの人の声は不安定ではないし美声だと思いますが、大人になっても成人前の青い感じの残る声。可愛いとはちょっと違う感じの若い声で、すごく好きです。

知り合いでもこういう声の人がいるのですが、本人はまったくお芝居とかやる人ではないので勿体ないなあと思っています。その人は顔もまあかっこいいのですが、冷静に分析すると声の良さで随分補正されてる気がします。
役者でも、外見のイメージより声のイメージの方がばっと入ってきますよね。よね、っていうか私はそう。

そういえば近所の唐揚げ屋さんで毎日のように呼び込みしてるお兄さんの声がめっちゃめちゃ美声です。
聞くたびに、この人芝居やればいいのにと余計なお世話なことを思ってます。まったく枯れず、よく通る、そしてどんな大音量で喋ってもうるささを感じさせない恵まれた声なんです。

舞台の役者で、大声を出した時に耳に突き刺さるような声の人がいます。生まれ持った声の良し悪しというのはそれぞれで、大声でもうるさく感じさせない声の持ち主は確かにいます。訓練しなくてもよく通る声の人もいます。
けど、それは顔の美醜と同じで、仕方ないことではあるけれど努力でカバーできる部分でもあります。
突き刺さるように感じる声の人は、空間の大きさとか声をなげかける方向を意識してなかったりするんじゃないかなと思います。
どんな声でもボリュームでも、投げかけるべき相手に適切な音量で発すれば、うるさくもなく小さくもなく聴こえるものです。漠然と大きな声を出していると、ただうるさいだけ。
あと勿論、発声訓練も大事です。
大劇場でも小劇場でも適切なボリュームの声を出すことがやはり一番必要だと思います。うるさいだけで言葉が耳に入ってこないのといくら何でも音量が小さ過ぎてまったくセリフが聞こえないっていう、この2つは本当に最悪です。

ちなみに囁き声でセリフの内容は聞こえてこないんだけど心情が伝わってくる芝居というのもありますので、小さすぎて聞こえなくて最悪!と感じるのは、そもそも芝居に気が入ってないんだろうと思います。
あと、全編において全役者がぼそぼそ喋る芝居は、伝わる伝わらないに関わらず私はあんまり好きじゃないです。好きな人もいるだろうけど。

最後に、声にまつわる、自分が生涯忘れられないであろう失敗を告白します。
もう10年以上前のことです。
私はライブの後にとある芸人さんと喋っていました。何度かお笑いライブでご一緒したことがありましたが、ちゃんと喋るのはその時が初めてでした。
今はもう普通にテレビを見る人なら名前と顔とネタが一致するくらい知名度もあり売れてる人で、当時も既にかなり注目されてたコンビです。
そのコンビの片割れの人の声がなかなか特徴があるのですが、それこそ個性的で私は凄く好きなだったのです。
で、その人と話してるうちにたまたま声の話になり、
「俺の声は●●なんだよねー」
と、その人が。何と言ったかハッキリ覚えてないのですが、まあ美声にはなり得ないみたいなことを仰ったと思うのですが、それに対しての私の答えが
「手術とかでもどうにもならないんですか?」
です。
最悪です。最悪です。その人の声を全否定ですよね。
私がちょっと緊張して話してたとか焦って喋ってたとかそんなもんは関係ありません。でも私はその声が好きですということが何故口から出てこなかったのか。
どうしてこう、その状況で一番選択してはいけない言葉が出てくるのか。
繰り返して言いますが私はその人の声自体が好きです。それに、そりゃいわゆる美声ではないかもしれませんが、ネタがとても聞き取りやすいのです。伝える能力がとても高い。
今にして思えば、本人が声を気にしているのであれば、特に聞き取れるように注意して喋っていたんだろうなと思います。だから他の人よりも聞きやすかった。弱点だと思ってるからこそ気を付けることで、逆にそれが長所になる。素晴らしいことです。

なのに…ああ…。

もう会うことは無いでしょうし、どこかで会ったとしてもそんな本人が覚えてるかどうかもわからない話を蒸し返して弁解するわけにもいきませんし、恥をしのんで弁解しても、ホントはそんなこと思ってなくてむしろ声が好きなんですよ、なんて今更言ってもそんなもん空々しく聞こえることでしょう。もし忘れてたんだとしたらわざわざ嫌な思いをさせてしまうでしょうし。
嫌な思いと書きましたが、当時ご本人が私の言葉に何を思ったかはわかりません。取るに足らない捨て言葉だと聞き流した可能性だってあります。が、何はともあれ私の発言が最低最悪だったということだけは確かであり、その発言は消えません。


実はあともうひとつ、また別の状況・相手に対しての忘れられない失言があるのですが、気持ちが落ち込んできたのでまたいつか機会があればということでその話は今日はやめておきます。


うまい言葉を出せなくてもいいから、丁寧に喋りたいです。
咄嗟に間を埋めようとするあまり、適当な言葉を出してしまったら2度とひっこめることはできませんから。

声も芝居も人間関係も、なんでも心がけ次第ですなあ。