私のもうこれは捨ててはおけぬ部分の感情

先日観に行った一人芝居。
観終わって私は悲しくなった。
もう、悲しくて悲しくて悔しくなった。

昭和の初めのころのさ、まだ「芝居は男のもの」だった頃の女優さんの話。

これ、今の世に生きる人間に、何を受け取って欲しくてつくった芝居なのだ。

ご本人を知らないのに、だ。この芝居を観て私は
「この人、口ではたいそうなこと言ってたのに結局好きな男がいなくなったらそんなの全部忘れて死んじまうのかよ」
「女って小せえなあ」
と思った。

高い志をもった人なんだと思って観てた。
たった一人心を許せる相手だった幼馴染のお兄ちゃんを戦争で失った場面では涙が出た。
芝居の稽古風景の場面を観て、「役者としてそれってどうなのよ」と思いつつもアクが強いのも魅力のうちだしご立派な人間が良い訳じゃないし・・・と思ってた。

芝居というものを一部の成金の娯楽じゃなく一般大衆のものにしたい、と
人間は自分のために人生を生きるべし、人間に上も下もない、と
そういう島村抱月の意志を分かち合う同志なのかと思っていた。

けど、
ラストシーンで失望した。

結局ただ情欲のみだったのかよ、と。
あの御大層な語りはみんな、付き合ってる男の受け売りだったのかよ、と。
心の中では微塵もその志を理解してないくせに、若手の役者にただその役者が男だってだけで食ってかかって「私は役者として・・・!」なんて言ってたのか、と、

役者って、そんなもんなのか?
そんな、そんなにくだらないのか?女優って。
悲しいよ。

なに、昭和っていうのはまだまだそんなだったんだよ、ということを言いたかったの?
でもさ、そういう昔の女の姿を観て、こっちは何を思えばいいんだよ。
ろくに知らないこの女優の、魅力も何も知らぬままにただ、
「小さくて愚かな女のテンプレート」
という印象がついただけだ。
悲しいのは、それから何十年も経った今でさえ、自分の人生を自分のものとして生きられない女がいるってこと。
何も変わってないじゃないか。

だったら、どうせそんななら、架空の昭和の女で良いじゃないか。
彼女をモデルにしてはいても架空の人物じゃいけないのか?なんで彼女本人を貶めるような芝居を創るんだ?

そりゃ女優さんでさ、ご存命でももう亡くなった方でも、男に翻弄されたり男じゃなくても人生のいろんなことでわーってなっちゃったりした人は他にもたくさんいるよ。
心を支えられなくなって自ら命を絶った人もいるよ。
そういう女優さんの話を読んだりして、
「なんだだらしないなあ」とは別に思わない。
ただ悲しかったり、それでも彼女がステキなことには変わりないと思ったり、あんまり言いたくないけどそういう風に生きたからこそもしかしたら現代の我々にはきらめきがより増して見えるのかもしれないとすら思ったり。

っていうかそもそもだらしない人間は嫌いじゃない。
誰も彼もが強く生きられるわけじゃないし、強くなければいけないとも思わない。
金と欲と男にまみれてもいい。孤高じゃなくてもいい。だらしないの上等!
男に振られて死んでもいいじゃない。恋に生きる女優、ステキ!

でも、役者として演劇人としてだよ?あんなにもあんなにもあんなにも御大層なこと言っておきながら、男が死んだら芝居を捨てて後追いか、と。
何が庶民の為だ、何が弱者の立場だ、
ぜんぶぜんっぶ島村先生の受け売りで、それを喚き散らして偉そうにしてただけじゃないか!と。
そんなイメージしか残らないなんて。
まあもしかしたら、島村先生の言うことなんてまるでわかりません、私はただ先生のおそばにいたいだけ、誰かに必要とされたいだけ、という描写を(もしくはそのように演じていたのを)私が見逃していただけかもしれない。

あと、舞台と本は違うからね。ドキュメンタリーも違うからね。映画とももちろん違うからね。
舞台でこの人を描く意味。舞台で表現する意味。
ああ、こんなことわざわざ言うこと自体が恥ずかしい。

この女優の、もしかしたらダメな部分ばっかりをテレビのドキュメンタリー番組で観ても、私は何も怒ったりはしない。

この女優の何に惚れ込んで、舞台で何を見せたくて脚本が書かれたのだろう。どういう意図でこの人を選んだのだろう。
もしも、
「女って結局愚かで、そこがどうしようもなく女で、可愛いよね」
という意図であるならそりゃ伝わった。可愛いとは思わんが。

一言でいうと、この女優さんの魅力があまりに伝わってこなかった。それが悲しい。
何も知らない私が、この女優さんのダメなイメージだけを心に強く残すことになったのが悔しい。
どうなのよ!なんなのよ!

演じてる女優さんは魅力的だった。可愛らしくて、いかにも男に愛されそうで説得力があった。歌声も素晴らしかった。
でも、もとになる人物の魅力が私には伝わってこなかった。
どういう愛を持ってこの女優さんを描こうと思ったのか、それを脚本家に演出家に(同じ人です)聞かせてほしい。
それがわかれば、きっと少し私のこの気持ちは救われる。

まああとどうでもいいんだけど、先生の死を聞いて自分ちに駆け付けてきた奥様に対して、ぬけぬけと
「私が死んだら先生と同じお墓に入れてください」
と言うこの盗人猛々しいセリフに不快感。
私が奥様でこんなこと言われたら、
「だったら今この場で殺してやるよ!」
と言ってぶん殴って押し倒して首絞めてるわ。知るか、ばーか。と。
まあ単純にただただ私が不倫が嫌いって理由なんだけど。
不倫だったら真実の愛とかぬかしてんじゃねえ!肉欲丸出しの方がすっきりするわ!
そういえば冒頭で、「先生と私は汚らわしい関係ではなく精神的な結びつきで・・・」と言ってたのはあの女優さんの演技(というか出まかせの言葉)だったんだろうか。
だって、志を微塵も理解してないのに精神的に結ばれてるとか笑えない冗談だわ。

っつうか、終始その調子で微塵も先生の心を理解してない依存症の女ってことの方が合点がいくけど。
だったらなおのこと、いっぱしの女優ぶって偉そうな口を若手にきいてる場面が腹立たしい。お前、若手にそんだけ言うからには自分ももうちょっとマジに取り組めや、と言いたくなるな。
そしてやっぱり、そんなその辺によくいる女優ごっこの一応経験年数だけは無駄に長いお嬢ちゃん役者みたいな女の話を観て何になるんだろうという気持ちが強まる。

そんなわけでさ、良くも悪くもこんだけ熱く感想語られたら私だったら嬉しいなあ。
なんという素晴らしい観客なんだ、私は!

こういう時に決まって思うのは、
私がこの女優さんをモチーフに描くとしたらどうするだろうということ。
もしくは、
この脚本を渡されたらどんな芝居を創ろうとするだろうか。自分が演じるならどうするだろうかということ。

独り芝居は、またすごく難しいとは思うのだけど。

独り芝居といえば、楠美津香さんを久しぶりに観たいなあ。