思い出し

暗闇で横たわっていると、外で車の停まる音がした。
旭川にいた時のことを思い出した。

誰かが車で迎えに来てくれた夜のこと。
友人だったり、彼氏だったり、先輩だったり、相手はいろいろだったけど、家の外で車の停まる音を聞くと、嬉しくてワクワクして外に出たっけ。
洗面所の窓から外を見て、たまにお向かいの車の音だったりしてガッカリしたり。目当ての車だと心踊って、窓から手を振って外に出た。母や父に、「行って来ます!」とだけ言って。顔も見ないで言ってたなあ、行ってきますって。
「気をつけてね。行ってらっしゃい」
と必ず言ってくれた母や父がどんな顔をしていたのかわからないけど、心配してただろうな。それとも慣れてしまってたかな。

約束が無くても、好きな人がいる時は、車の音を聞いただけでソワソワして、玄関チャイムが鳴るのを待ったり、窓の外を見に行ったり。もちろん関係無い車の音だってことはわかりきってる訳なんだけど。

夜中に車の音がして、しばらくすると玄関からカチャカチャと鍵を開ける音がして父が帰ってきたり。
居間にいる時には「お帰りなさい」と言ったけれど、たいてい読んでるマンガに夢中で、顔も見ずに言っていた。

今では人の顔も見ずにそんなふうに声をかけるなんてことはほとんど無いけれど、どうしてあの頃はそれができたんだろう。

自分が相手が家に帰ってくるということを、当たり前だと思っていたんだろうな。


暗闇で横たわってそんなことを考えていると、雨が降ってきた。
雨の音がますますいろんなことを思い出させて、何も悲しいことなんて無いのに、涙が出てきたりして。

歳とった証拠だろうか。

まあでも、泣ける映画も小説も手に取ることなく、心に傷を負うこともなく、ただ綺麗な涙を流せるんだから、昔のことを思い出すのは悪くないね。