オカルトと燃え盛る恋と

怖い話が苦手です。
実話の事件や事故も怖いし、心霊系の作り話も、トイレに行けなくなるくらい怖がる。

我が家は家鳴りがひどいのですが(推測するに原因は湿気)、先だっての夜は家鳴りをきっかけにいろいろ怖いことを想像し始めてしまい、明かりをこうこうとつけたまま、眠くなるまでじっと布団にくるまっておりました。

過去に見聞きした怪談とか、己の想像力を駆使した創作心霊現象とかが家鳴りとともに頭の中を好き勝手に飛び交い、それはそれは怖かったのです。

が、心霊現象の結末って、いったいどうなるのでしょうね。
何か本当に見えたり聞こえたりしたとして、で、怪談だとそこで終わるか後日談にワープする訳ですが、実際は当事者の時間は途切れることなく流れてる訳ですよ。
ぎゃー!と叫んで失神すんのかな。
失神して気付いたら朝、ならいいけども、失神しなかった場合どうなるんでしょうかね。なんか座りが悪い話です。オチはどうなるのか。

そんなことを考えてるうちに、これまたふと思ったのです。
燃えるような恋の結末ってどうなるんでしょうか。

燃え続けるには燃えぐさっていうの?火に投げ入れる薪的なものが必要な訳ですが、資源は無尽蔵ではありませぬ。
自家発電にも限界があります。一生ドラマチックな展開が続くわけでもないでしょうし、
「本当はあの子と浮気してるんじゃないの?!きい!」みたいな言いがかり的焚き付けにも限界があると思うし、どうしたって火力は落ちていくよなあと。

己の魂?を燃やしたとしても、ずーっと業火に焼かれ続けてたらば自分も相手もいずれ燃え尽きてしまう日がやってくるでしょうし。

とすると、永遠の恋人を見つけたとしてその人とずっと長い年月を過ごすとしたら、いずれ燃え盛る恋は終わり、そのさきには必ず、いわゆる「陽だまりの二人」的な穏やかな付き合いが待っているのでしょうか。

30年とか50年ものあいだ激しく燃え盛る恋か。

例えば。

才能があって女にもてる若いハンサム(職業は仮に画家)と、年増だけどチャーミングでコケティッシュな資産家の未亡人、みたいな間柄で、かつ彼も彼女も魅力的だもんだから常に身の回りにロマンスやロマンスの種火がちらちらしててお互いにほどよく嫉妬したりなんかして、その全てが彼の創作活動の糧になっていることをお互いわかってるから余計に激しく燃え盛ることを望んでいて・・・みたいな状況で、加えて二人とも絶倫でいつまでもスーパー元気じゃないと無理そうな気がするんですがどうでしょうか。
これはもう奇跡と言おうかおとぎ話と言おうか。

言っとくけど、
「いつまでもラブラブでーす。にっこり。お手手つないじゃお」
程度じゃないですよ。
『風とともに去りぬ』のポスター並のメラメラゴウゴウですからね。
それを、一生涯。

そうか、永遠に燃え盛る恋というのは人類には実現困難なものだから憧れにもなりうるのだな。ハーレクイン。

そりゃ、誰もが普通に一生燃え続けられるんだったら、そもそもここでそれを語ろうなんて思わないし。
そうかそうか。

私ときどき、自分が本当に小学生レベルの知能しか持ってないような気がしてくる。

まあだからやっぱり心霊現象も、あまりにも派手な展開が現実に起こるっていうのはなかなか想像し難いです。
怪談ってやっぱり、物語の登場人物のためのストーリーじゃなく、聞き手と語り手のためにあるのですよね。普通の物語に比べて主人公はあくまで恐怖を盛り立てる為の存在といいますか、ストーリーの都合でいかようにも蹂躙されることが前提のような。

そうそう、昔お盆時期に起こったあれも、怖い話だけども実際当事者の私にとってみたら、



いや、あれは当事者的にも怖かったな。

季節は8月ど真ん中。時間は午前3時半頃だったでしょうか。マンガを読みふけり夜更かしした私は、そろそろ寝ようかなと電気を消したのです。

すると、しばらくして何かずるずると引きずる音が聞こえてくるではありませんか。
そっちには窓がある…窓の下、庭を野良犬(まだ稀にいたんですよ、町中に)か猫が、ゴミでも引きずってるのかな。

ずるずる
ずるずる
ずるずる

ん?

気付くと音がやけに近くで聞こえています。

私は勢い良くベッドの上に半身を起こし、窓から微かに街灯の明かりが差し込む暗い部屋の中に目を凝らしました。

窓際に置いた机と、ベッドの間にある2メートル四方くらいの床の上。もちろんそこには何も見えません。
が、
ずるる…、ずるる…、と重たいものが這いずる音だけはハッキリとその床から聞こえてくるのです。

地味全開なエピソードだけど、その瞬間私は楳図かずお先生画、みたいな顔になってたと思います。

私は勢い良くタオルケットを被り、膝を引き寄せて丸くなり、頭が痛くなるくらい強く目を閉じて、何事か頭の中で唱えました。
何だったかな。お経だともっと怖がりそうだから。
とにかく眠くなれ!と、想像力フル回転でお城の舞踏会みたいな図を想像してた気がします。
社交界の花と陰謀渦巻くなんとやらみたいなそんな。
薄いタオルケットが心許なく、自分で自分を守るように丸く固くなっていました。

どれくらい時間が立ったのか、気付くと瞼の向こうに朝の光を感じました。
恐る恐る周りの音に意識を向けると、雀の声も聞こえています。

良かった、朝だ!

そう思って目を開けると、

怪談だと顔を覗きこまれてるところですが、何もおらず、夏の早朝の光によって、部屋の中は明るく照らされていたのです。

ああ、良かった。

激しく燃え盛る永遠の恋は無いね。
みんな穏やかになるもんさ。
だから心霊系の怖い話だって恐るるに足らず!!

と必死に言い聞かせる37歳。

あーっ、昼間調子に乗って怖い話なんて読むんじゃなかった!

下の部屋の住人が明け方までワイワイ騒いでくれたらいいなあ。

つまり、私が騒音に寛容な理由はこのへんにある訳です。