旭川の話、夢はたまた記憶の話

場所は旭川駅前の繁華街をちょっと外れた路地にある、「美禅(漢字は違ったかも)」という喫茶店
短大生の私は、彼氏と一緒に店に入り(地下だったかもしれない)、1番奥の席に向かい合って座った。
夕方の、街の賑わう時間帯なのに客は自分達だけ。
店内は薄暗くて、テーブルの位置も何だか不自然で妙に狭苦しい。

たらこスパゲティを食べ終わり、彼氏とお喋りしたり、テーブルの下でコッソリ手を触れ合ったりしてると店員のお姉さんが凄いスピードで、それでいて音も無く近寄って来て、
「場所わきまえてください」
と憤慨した様子で言った。

私と彼氏がお金を払い店を出ると、その後にすぐ続いてK高演劇部顧問のO原先生が店から出て来て、私と彼氏に
「知ってたよ」
と言って笑顔で去って行った。


なんかシュールな夢みたいだけど、20年近く前にあった実話だ。
さっきふと思い出したので文字にしてみた。

先生の発言も何が「知ってたよ」なのか謎だが(二人が付き合ってたのを、ってこと?え、何故??)
店員さんに注意されたのもよく考えたら腑に落ちない。フツーにお喋りしてて、テーブルの下で手を触れあって…まさかいやらしい部分をまさぐり合ってると思ったんだろうか?

その店の店員さんは記憶してる限りではそのお姉さん1人だけなんだけど、メガネを外すと美人だと思うんだがだいたいニコリともしなくて、お姉さんなのか本当はおばさんなのか年齢不詳で、ものっすごい静かな声で喋る人だった。

その店は高校時代に先輩に連れて行ってもらって以来たまに行ってたんだけど、「カチカチ山」という、花火が突き刺さってるパフェ(もちろん点火されてパチパチいって出てくる)とか、どんなんだかもう忘れたけど「かぐや姫」とか、「一寸法師」だか「桃太郎」だか「浦島太郎」だか、とにかく日本昔話シリーズのパフェが売りだった。
あと、スパゲティ。
私はそれまでスパゲティといえばミートソースとナポリタンくらいしか食べたことが無くて、その店で初めて和風スパゲティを食べた時は大人の階段を昇った気分になったもんだ。
小学生の時に「りぼんオリジナル」に掲載されてた陸奥A子さんの漫画で、ボーイフレンドとの初デートで「和風たらこスパゲティ」を食べるシーンがあった。そういう刷り込み(高校生のデートへの憧れ)があったんで余計にたらこスパゲティに感動を覚えたのかもしれない。

そういえば何年か前(もしかしたら10年以上前かも)に帰省した時、これもまた不意に思いたって1人で美禅に行ってみようと思ったんだけど、散々辺りを探し歩くも結局見つからなかった。
単純に店が潰れたのかもしれないけど、思い起こせば高校時代も、何度も周辺の路地をグルグル探し歩いてようやく見つけた気がする。そんなに店が密集してる地帯でなかったにも関わらず。
そういうとこも含めて何やら夢の中にあるみたいな店なんである。


懐かしいな。旭川にいた頃によく行ったお店。
カラオケとボウリングなら須貝ビル。ゲームセンターも入ってたっけ。
待ち合わせはその須貝ビル前かオクノ前ね。
「アゼイリア」?だっけ?は私はあまり行かなかったけど先輩達ご用達の喫茶店。ちょっと大人なムード。
あと、「レピッシュ」という、これはバー?だったのかな?カラオケもあったなあ。スナックかな?ここは連れられて行っただけなんであまり覚えてないけれど。

っつーか先輩に連れられて行ったお店がどこもここもちょっと薄暗くていかがわしい雰囲気の店が多かったのは、うちがバカ高校だったのと何か関係あるんだろうか?

私は親がかなり自由にさせてくれてたので、門限も無かったし(さすがに夜中に帰ったりすると怒られた)、先輩方に付き合ったり付き合わされたりする時間がたくさんあった。
高校3年の頃は、部活とか劇団の稽古が終わってから唐突にドライブに連れて行かれたり(山とか行っちゃうの。超怖かったわ)、なんか意味不明に夜遊びしてたっけ。恋バナしながらさー。あの頃最高に甘酸っぱい片思いしてたっけなー。
そんな田舎のヤンキーくさい夜遊び生活だったけど、何せどこに行くにも車だったもんだから(もちろん先輩の運転ね)、お酒が絡むことは無かった。お部屋にこもって悪い遊び、みたいなんじゃなかったからなあ。
お酒もタバコも無しという意味では、やっぱり今より健全だったかもしれない。

私自身は超絶地味なおぼこ娘で真面目っ子だったけど、先輩達はあらゆる面で華やかでアグレッシブで面白い人ばかりだった。演劇部じゃなかったら気後れして付き合えないような。特に2個上の先輩達とOBの皆さんはなんつーかめちゃめちゃで、私自身が社会に出る前に、結構いろんな扉を開いてくれたもんだ。
1個上の先輩は、それに比べたら硬派な感じだったなあ。いや、充分めちゃめちゃだったかもしれないけどベクトルが違ってたというか。あと、怖かった。優しいんだけど、優しいからこそ軽蔑されたらどうしようと思って、エリをただしたもんだ。

そんな高校・短大時代。
でも、どれもこれもあまり鮮明な記憶では無い。
断片的で、少しモヤがかかったような、「美禅」の記憶ほどでは無いけれど、あやふやで曖昧で夢みたいで。
時系列もめちゃくちゃ。

多分いつも(そして今も)ぼんやりと考え事をしながら生きているからだと思うんだけど、何かを体験する時はその世界をしっかり見聞きし感じ取らないと勿体ないね。
自分の世界に篭るのはいくらでもそれに適した時間が別であるんだから。

昔の記憶がもっと鮮明だったら。
もっともっと自分の周りの世界を楽しむことができていたら。

と、思うんだ。

ん?ちょっと待てよ。
しかし漫画のことと男のことは結構詳細に覚えてんだよなあ。
特にものごころついてからハタチくらいまでは、いつ読んだ漫画でいつ知り合った男でどういう内容でどういう性格でどんだけ好きでどんだけ没頭してたか、かなり事細かに覚えてるわ。

ああ…なんか…。
まあ…いいか、偏った記憶でもゼロよりマシだわ。

記憶すなわち人間なのね。
だから、忘れるということを人は恐れるのだわ。