笑いながら泣きながら

この舞台を語る上で外せないのは「昔、アニーになりたかったお母さん」です。おそらくこのシーンは劇中でもっとも強烈だったのではないでしょうか。
ミュージカル『アニー』の舞台を観て感動して、オーディションを受けようとした女の子。私も「トゥモロー」を歌ってみんなに元気をあげたい、私が感動したこの気持ちを今度は私がみんなに伝えたい!
けれども家が貧乏で習い事もしていなかった少女は、応募用紙に広がる大きな白いスペース「今までの舞台経験、習い事など」の欄を前に何も書くことができず、自分の思いを何一つ伝えることのできないまま、オーディションを受ける権利すら得られないで夢を諦めた。そんな過去を持つお母さん。

これがもう、めちゃめちゃに笑えるんです!いかにも田舎のお母さんという感じのキャラクターで、喋りまくって喋り続けて、遂には審査員に乞われてアニーの「トゥモロー」を歌うんです。しかも一人芝居付きで。で、その芝居もさることながら歌が超絶に上手い!こんな小さな劇場でこんな声量のある、しかもこんなに上手い歌を聴いたのは初めてです!客席からは我慢できないとばかりに拍手喝さいが!
我々はそのお母さんにずうっと笑わされ続けていたんです。なのに話が進むにつれ涙が抑えきれなくなり、遂には大きな感動に包まれたんですよ!凄いことです!それも、泣いたり感動したりしながらも、ずっと笑いは続くんです。
笑いながら泣きながら笑う、ということ自体が珍しいかと思うのですが、それもあんなに激しく感動しながら声を立てて笑うなんて、少なくとも私の人生においては初体験でした。
会場には笑い声と洟をすする音が渦を巻き、私もハンカチをびしょびしょにしながら笑いました。
演じたのは窪田あつこさん。私は初見でしたが非常に上手くて面白い方です。

さて、どうしてもアッコちゃんを決められない、追い詰められた監督でしたが、最終的に一人の少女の名前を挙げます(観客には聞こえません)。

そして一人オーディション会場に残った監督は、選ばれなかった四人のアッコちゃん候補の少女達への言葉を口ずさむのです。

これがまた・・・どういう感性で生きていたらこんな言葉を操れるんだろうと思うくらい胸に響く言葉でした。ひょっとしたら私の性別とか年齢とか環境とかいろんなものが作用して、殊更に心を揺り動かされたのかもしれませんが。
とにかく、最後の最後にきっちり泣かされました。監督役の佐藤寛子さんも、とても良かったです。

どうです、観に行きたかったでしょうー!