ホラーというかサスペンスというか

これは昔あった本当の話なんですが。

Aさんという人がいました。気さくで元気で楽しい人で、いつも人に囲まれているような人でした。
私は、遠い知り合い程度の付き合いだったのですがある時ちょっとした縁から一緒にお仕事をすることになり、初めてAさんと密接にかかわることになりました。

Aさんはやはり楽しく皆の中心にいて、その仲間内の人間関係は、Aさんが潤滑油となっているような、そんなムードの日々が円満に過ぎて行きました。

ある日のこと、その時一緒にいた仲間のうちのひとりBさんが、Aさんを家に招くというような話をしていました。
私はあまり普段から人付き合いにおける発展家でないので、AさんともBさんともつかず離れず、まあ会ってる時はごく普通に喋るけど、特に私的に仲良くなったりはしないという程度の関係でした。
なので、お泊り会の話を楽しそうにしているAさんとBさんの姿がとてもほほえましく、確か5〜6歳くらいは年齢の違う二人だったと思いますが、短期間に仲良くなって良かった良かったと思ったものです。どちらかというとあまり外交的なタイプでないBさんがAさんにはとても懐いていってるのも、Aさんの人柄あってこそなんだなあと感心したものです。

しかし、それからしばらく経ったある日のこと。Aさんがふと私に漏らしました。
「手なずけたから扱いやすくなったよ」
最初は何のことかわかりませんでした。が、話を聞いてるとAさんは、どうやらBさんとは場を円滑にするために仲良くしてるだけであって、その実、
「お泊りとか行くわけないし」
と考えていたのです!
あまりの衝撃的なコメントに、私は自分が何と答えたのか覚えていません。どちらかというと、
「私はホントに人の本心がわからない鈍感な奴だなあ」
という方に考えがいっていた気がします。それに、例え表面上の付き合いにしろBさんは楽しそうだったし、本人が知らなければいいんだろうなあと。大人同士なんだからそういうこともあるよな、と。
その時は、その程度に捉えていた気がします。
実際、Aさんはその後もずっとBさんと楽しそうに接していたのです。

話はここからです。

それから数年後。私は再びAさんと関わることになりました。Bさんの事もすっかり忘れていたある日、Aさんはこう言ったのです。
「Cちゃんって、ちょっと話にならないんだけど」
私は何の話をしているのかわかりませんでした。Cちゃんというのは、その時の仲間のひとりで、Aさんとももちろん仲の良かった人です。
Aさんは続けました。
「・・・・・・・・・・・・・」

この時Aさんが何を言ったのか、ここに記すことはできません。Cちゃんに対しての悪意の言葉であったのは覚えてます。が、正確に何と言ったのか思い起こすことができないのです。まるで、思い出してはいけない言葉であるように・・・。
Cちゃんを否定する言葉であったことは確かですが、そんなひどい悪口とか罵詈雑言では無かったはずです。にも関わらず、私がその言葉から受けたショックはとてつもなかったのです。
というのも、そのつい数時間前にAさんはCちゃんに、
「Cちゃんは可愛くて華があってホントに羨ましいくらい!ねえねえ、今度女子会しようよ!」
なんて話しかけていたのです。
Cちゃんが、ではありません。Aさんが、です。

何故?何故なの?何故?

私は軽いパニックに陥りました。
そんな否定の言葉を内心に抱えている状態で、どうしてわざわざ自分から寄って行って称賛の言葉を浴びせ、遊びの誘いをするのか・・・!
その時初めて私は、数年前のBさんのことを思い出したのです。
あの時もそういえば、Bさんの懐に滑り込んで行ったのはAさんからでした。だからこそ社交的ではないBさんが、気後れすることなくAさんと仲良くなれたのですから。
Cさんも、どちらかというと私と同じタイプ、Cさんの方から特にAさんに近づいていくタイプではありません。つまり、Aさんの方から・・・。

あの時と・・・同じ・・・。


本当に怖かったのは、この話をごく数人の親しい人に話した時、そのうちの1人が
「でもそれって、世間的にはそんなに珍しい話でもないよね」
と言ったことです。


なんでよーっ!嫌いなら別に普通に接してればいいじゃん、わざわざ必要以上に擦り寄っていかなくたってさーっ!!!

そしてその二面性をわざわざ私に披露しないで。見たくないから。
隠し通してくれりゃ真実なのになー。