劇中の恋人

芯から役にのめり込んで演じたという経験は今まであまり無いのだけど、それでも劇中で恋人だった相手への想いが未だに自分の中に残っていたりして、少し意外だ。

初めての恋人は1993年、旭川南高校演劇部3年の時に上演した「グラスホッパーストーリー(脚本・大橋慰佐男)」の、由美子ちゃん。
私が演じた文系の直情少年トオルくんに何故か好意を寄せてくれたチアリーダーの女の子。
「デートに誘われた。生まれて初めての事だった!」
と、ニヤついた独白と共にビートルズのキャントバイミーラブが流れ、デートシーンが始まるのだ。うわ。何と言う演出!(←自分だ)

モテる幼なじみケンジと違って、初めて舞い込んだ恋に浮かれ上がるトオルの、あのトキメキは忘れられない。
何年か振りに由美子ちゃん(演じたのは当時2年生の後輩)を思い出したのだけど、
「可愛かったなあ」
なんてデレデレしてしまう。
女子が男子を演じるのは好きじゃないけど、あの時の私の心は確実にトオルだったから、まあ良しとしようという気になる。

次の恋人は、それから随分経った2000年頃、劇団初のオリジナル台本「コールドスリープ」のユウ。私が演じたのは初老の植物学者ユウの妻、キクだった。
仲睦まじい夫婦を突如引き裂いた事件。結末はおよそハッピーエンドとは言い難いものだったけれど、二人の愛は貫き通された…みたいな、物語の本筋に絡みつつも横道を走るような、長年連れ添った二人の愛情物語。
今ならもっと深いところまで掘り下げられるだろうけれど、それでもユウを想うと今でも心が暖かくなる(演じてた役者はユウとは似ても似つかないダメ男さんだったけど)ってことは、稚拙ななりに愛はちゃんと生まれてたんだろうな。

続いては、またまた随分経って2007年。脱線劇団ページワンの舞台、タイトルが長すぎて覚えて無い、名探偵・金田一耕助シリーズのパロディで、名家の奥様をやった時の旦那様、婿養子のマスオさん。
この時の相手が現・発条ロールシアターの主宰なのだが、未だにどうも主宰に対してワガママばかり言ってしまうのは、この時のラブラブ夫婦の名残なんじゃないかと思うがどうなんだろう?

その後は発条ロールシアターの「パソドブレ(2008年)」で、少女時代の片想いの相手を想い出の世界から呼び戻してしまうお婆さんとか、「アマガエル(2009年)」で、夫への不信感から離婚してしまう甘えんぼ妻とかを演じたけれど、鬼の顔で演出しながらもやはりどこか甘い気分が漂っていた気がする。

なんて思う午前3時。