ラク!

芝居ってラクでいいな。
何がラクって、人間関係の煩わしいことを考えなくていいのがラク

社会生活においては、「うまいこと人付き合いができないと・・・」という部分での苦悩が多少なりとも付きまとってくるものだが、芝居をつくる場においては、芝居とちゃんと向き合ってさえいれば人間関係も上手くいく。そもそも「人間関係」という言葉を発想すらしないような環境であることが多い。
芝居と向き合うのは芝居をやる上で当たり前と言うか大前提と言うか不可欠なことだから、つまりそれをやってさえいれば他の煩わしいことを考えなくてもいいってこと。そこだけ取って考えると、いやーラクな世界だのー。

まともなまっとうな演劇人同士だったら、役者だってスタッフだって「人間関係を円滑にするには・・・」なんてことをわざわざメインには考えない。
もちろん、関わる人間みんながみんな同じ考え方では無いだろうから、時には煩わしいことも出てくるかもしれない。
でもまあ、たまにあるくらいなら乗り越えるのも苦じゃないだろう(関わる人間が多くなればなるほど増えてくるものだとも思うけど)。

誤解無きように言うと、礼儀とか思いやりとかそういうものは必要だ。
それは、芝居だろうと会社だろうと家族間だろうと必要なことで、たった一人で生きているんじゃない限りは絶対に大事にしないといけない部分だ。人間対人間の、誠意とか良心とかの部分ということだ。
むしろ芝居の世界ではその部分は特に大事にされているかもしれない。それはやっぱり、メリットデメリットとか人間関係を円滑になんていう理由では無く、役者=人間、芝居=人間を描くこと、であるところが理由なんだろう。人間としてどうあるか、ということは大事な話だ。

たとえ女遊びが激しかろうとギャンブル狂いだろうとそういうことはあまり関係無くて、もっと深層の部分の人間としての有り方、というんだろうか。

自分自身に関して言えば、私はだらしない上に性格も悪いし利己的なので、礼儀や思いやりに欠けることはあるかもしれない。っていうか、ある。なので気をつけなきゃね、という話ではあるんだけど。


とにかく芝居はラクでいい。


実は世の中には自己啓発的な意味で活動している劇団も少なからずあるのだけれど、それはそれで、芝居なんてちょっとおかしい社会に適応できない人の集まりなんだから驚くようなことでも忌み嫌うようなことでもない気がする。むしろ、「劇団なんて自己啓発セミナーみたいなもんでしょ」と言い放たれたりもするけれど、あながち間違ってないかもしれない。
要は創る作品がきちんと外に向いていれば、問題ないのだ。

知人で、大学時代くらいまでは人と関わるのが怖くて、それこそ自己啓発セミナーみたいな劇団に入って鍛錬していくうちに芝居に目覚め・・・という経歴を持つ役者さんがいる。
今は訳あって(それもやむにやまれぬ苦渋の決断だと思われる)芝居から離れているけれど、物凄くいい顔をした、物凄く面白い役者さんである。
実は発条ロールシアターの「パソドブレ」に出てくる青年将校の役は、最初この人に演じてもらおうという話があった。いろいろあって断られて、あれやこれやあって江戸川良が演じて最高のハマリ役となったのだけど、おそらくこの人が演じてたら物語がまったく違ったものになっていただろうな、と思う。すごく個性的で、すごく存在感のある役者さんだ。
もちろん今となっては「パソドブレ」の織部中尉は江戸川良以外に考えられないなと思っているのだけど(なので江戸川さんが年齢的に織部中尉を演じるのが不可能になったら、発条としてはもう「パソドブレ」は上演しない)。

迷って悩んで苦労して、あるいは笑って喜んで幸せを感じて、それまでの人生をどう生きてきたかが役者にとって一番重要なことであるとすれば、人間関係で煩わしい思いをするのは決して悪いことではないと思うのだ。
けれども、実際に稽古をする場では、わざわざそんな煩わしいことを持ち出す必要も無いと思うのだ。それは稽古場の外でやればいい。稽古場では稽古をすればいい。
そういうことなんだろうな。

うん、芝居って、ラクでいい。



あまり観念的な日記を書くのもどうだろうかと思うのだけど、ちょっと昔のことなんかをいろいろ思い出してるうちについ書いてしまった。
私は、精神的に弱ってたり何か患ってたりする人間にあまり優しくないのだけど、根っこの部分では決して嫌いでは無い。何か力になりたいなんて不遜なことは思わないけれど、はじき出すつもりも何かを無理強いするつもりもない。
ただやっぱり役者に限って言えば、自分の力で立ってもらわないといけない。
本格的に弱ってる人と一緒に芝居づくりをすると、芝居に対しての考え方と人間としての道徳心とがせめぎ合ってしまうこともあるけれど、演出家とか主宰って圧倒的な心の強さ、ぶれない芯の強さを持ってないとダメなんだよね。それはもちろん責任の要ることであるんだけど。
まだまだ全然未熟なもんだ。精進せねば。

そういえばクララが立てなかったのって、あれって精神的なものだったんだっけ?それとも、リハビリがあまりに過酷で立つのが辛かったんだっけ?
立てて良かったね、クララ。ハイジも大喜びしてくれたよ。