天丼のこと

子供の頃「てんぷら」といえば、かき揚のことだった。にんじんとごぼうの、時には玉ねぎの、かき揚げ。衣がやや重たくてべチャットしてた、かき揚げ。
「今日は天ぷらそばだよ」と母が言うと、そのかき揚げののったそばが出てくる。白いご飯のおかずとして単品で出てくることもあった。
はっきり言って、全然好きじゃなかった。

母はあまり家で揚げ物をしなかった(おぼろげな記憶によると、油の処理について母には何かしらの思想があったのだったと思う)ので、おそらくスーパーで売られているかき揚げだったのだろう。
ホントに全然、好きじゃなかった。

ドラえもん」でのび太が天丼に大喜びしているのを読んで、
のび太ってば渋い趣味だのう」
と思っていた。海老天の存在はまったく知らなかったし想像もつかなかった。

月日は過ぎ私は大人になり、天ぷらにはいろいろな種類があると知った。天丼で喜ぶ気持ちもわかった。
そして、かき揚げも好きになった。今だったら、子供の頃のあのかき揚げに、私は大喜びして食らいつくだろう。なんなら、すべての天ぷらの中でもかき揚げが一番好きかも。まあ、かき揚げの具にもいろいろあるが。なんかこう、具がこまごまごたごたになってひとつになってるのが贅沢で嬉しい。

ところでさっき天丼チェーンの店で天丼を食べてたら、隣にいた小学校低学年くらいの男の子とそのお父さんが話しているのが聞こえてきて、男の子が
「クラスの女子にいつも喧嘩で負けている」的なことを言うのに対してお父さんが
「お前は男のくせに女の子に負けててどうするのだ」
と叱っていた。
そういう教育法ってどうなのよ。
平和主義に育てるも、喧嘩上等に育てるも(しかしそれなら喧嘩の仕方まで教えたいところだ。人生の先輩としては)自由だが、勝ち負け論に男女の差別を持ち込むのは危ない刷り込なのでやめていただきたい。
大体、何をもってして自分の子が男で相手の子が女だと断定できるのか。
そこら辺を定義付けするよりも、性差別を撤廃するほうがよっぽどシンプルで早道だと思うんだが。今できる範囲からでもいいからさ。

今日は野菜天丼にイカ天追加。中盤までは非常に幸せだったが、食べきる頃にはやや不幸に。ご飯を減らすべきだったか。はたまたタレを減らすべきだったか。あるいは思い切って野菜天定食にしてあっさり食すべきだったか。うーん、飽食。

こないだ蕎麦屋で食べた天ぷらそば、旨かったなあ。ああ、飽食。