ギフト

世の中には、ただそこにいるだけで周りの人を幸せにできる、そんな能力を持つ人間が存在する。何もしていないのに、である。
彼らを見てるだけでこちらは楽しい気分になり、何気ない言葉のやり取りで安堵を得られるのだ。

ひとつひとつ分析すれば、彼らは実に平凡な人物だ。容姿は優れてもなければ殊更に劣ってもなく、狡かったり意地悪だったりという人間らしい弱さを持っており、人が喜ぶようなショッキングな過去がある訳でも無い。
彼らは慈愛に溢れた聖人君子でも、不遇の人生を送ってきた魅惑的な悪人でも無く、この世の多くを占めているであろう凡人の一人に過ぎないのだ。善も悪も適度に併せ持った性格の、ほどほどの特技が1〜2個ある程度の、決して歴史には名を残さない、凡人。

世の中には、生まれ持った性格の良さや外見的な魅力、優れた技術、はたまた人から好かれようとする立ち回りの努力などによって人気者になる人間はたくさんいる。クラスの人気者レベルから有名人クラスまで、その数は少なくない。
しかし先に述べた彼らは、今挙げたどれも持っていないのだ。
なのに人から愛される。人は彼らからの愛を得たいと焦がれる。
これこそを天賦の才と言わずして何と言おう。

そんな天賦の才の持ち主を、私は身近なところでなんと2人も知っている。2人とも生活レベルは低いものの、自分のやりたい事をやり、実に楽しそうに生きている。そして彼らを知る者は皆、彼らが好きでたまらないのだ。

そのうちの1人と話していた時、こんな言葉を聞いた。
「食うに困らないという言葉があるけど、僕は遊ぶに困らないんだ」
遊ぶお金は誰かしらが出してくれると言う。
彼は、最低限生活できるだけの稼ぎはあるものの余分なお金はほぼ持っておらず、遊びに誘われても数十円しか持ち合わせが無かったりする。だが誘った側の人間は、自分がお金を払ってでも彼にその場にいて欲しいと思い、「お金の心配はしなくていいから」と彼を誘うのだ。

もう1人の方は少しタイプが違い、こちらは、「たとえ無収入に陥っても食べ物に困らない」そうだ。いつも誰かにご馳走してもらったり食べ物をもらったりしている。

この2人の共通点を探したのだが、見つかったのはただひとつ。優しさを過剰に持っていない事だ。
それが彼らの天賦の才と関係があるのかどうか、それはわからない。