「フィーリアル」終演

日曜の夜の回をもって、無事に全公演を終了いたしました。
ご来場くださった皆様、ご協力くださった皆様、スタッフの皆さん、役者陣、全てに感謝です。ありがとうございました。

今回は出演者が少なかったのと、お休みによる鈍りが思ったより大きかったのとでなかなか思うように進められなかった部分もあります。
これも自分の未熟さゆえ…。

という訳で、ぼさっとしてる訳にはいかないのです。
次回公演はどこで何をやるのかもまだ何も決まっていませんが、勘が鈍るほどのお休み期間を取らないようにしたいものです。

そういえば久しぶりに(いつ以来だろう?)加茂克と絡む芝居が多かったです。
2010年のミストレインで、私が加茂克の上にのぼる、みたいな場面がありましたが、それ以降はただ同じ場所に居合わせる程度で、場合によっては一度も同じシーンに出ることもなかったり。
がっつり絡むのは2006年に出演した劇団、ページワンでの共演以来の10年ぶりかもしれません。

そう思うと今回は出演者が少なかったことが意外な楽しみを生んだともいえるかもしれません。
本番で一度だけ私のネタをひとつふたつすっ飛ばされましたが、それ以外は非常に楽しかったです。お互いに無茶苦茶になっても、謎の信頼感が存在するというか。
絡みはなくても、ずっと一緒に芝居をやってきただけのことはあるなあ、なんて。
どんだけ今回楽しかったかといえば、私もたまには婆さん以外の役で、また加茂克と共演したいなあなんて世迷言が口から出てしまうくらい。
あと、演じたコバカマという男は、加茂克が歴代演じてきた役の中でも猛烈にいい男だと思っています。同じ中年男の木股の人気の方が高かったみたいだけど、私は断然コバカマが好きです。脚本と演者の個性がマッチして、効果絶大といった感じ。

もうひとり、これも今回絡みの多かった小林レイちゃんですが、彼女も私がセリフをすっ飛ばそうが違うこと言おうが全然へっちゃらな顔で合わせてくれるので助かりました。
もともと好きな女優さんでしたが、こんなに上手だったっけ?と改めて思ったり。
そういえば彼女も私が一方的に素敵だなーと思ってて、その後で2回ほど共演しましたがまったく絡みが無く、今回が初めての絡みだったのでした。
演出してるからずーっとガッツリ絡んでたような錯覚をおこすけど(演出するのもまだ2回目だけど)、役者としては初めてなのね。うん、面白かった。
自分で言うのもなんだけど、今まで観た彼女が演じた役の中で今回のが一番好きかも。って、自分で書いたんだから好きで当たり前か。けど、実は私はあんまり好きなタイプではないのだ、今回のマキちゃんという女は。でも、その好きじゃない役をあんなに可愛く演じて好きにさせてくれたのだからすごい。
不器用だと自称してるし私もそれは完全に否定はしないけど、想像力が素晴らしくて、役を客観的に見たうえで愛して命を吹き込んでくれる女優さんです。


江戸川良にはいつも以上に助けてもらいました。
劇中でも「なに考えてるかわかりゃしねえ」と評されるシーンを入れましたが、書いてる私も理解不能の意味不明な元刑事・木股。いや、もちろん私にはわかってはいるけれど、あまりに普通の人すぎて、逆に難解なのです、この人は。
それが、本番を終えてみればお客様の評判が良いのなんの。これこそが、江戸川良の力です。
役者が考えれば考えるほど、苦労すればするほど役に深みが出るのなら、今回の木股という男の持つ不可解さは、江戸川良の力を発揮するのにとても良かったんじゃないかなと。

そういえば、いつもはそれぞれ若手と組むことの多い江戸川良と加茂克ですが、今回は二人が組む役どころなのでした。これも実に面白かった。
はじめは加茂克という役者のために始めたような発条ロールシアターですが、今は加茂克と江戸川良のための劇団であることは間違いないです。
いや、間違いだな。
正確には、加茂克と江戸川良の芝居を、誰よりも私が楽しむための劇団です。

そもそも私は自分の気に入った役者としか一緒にやりたくないというようなろくでもない演出家で、今回もそういうのがあったうえで声をかけた5人の役者さんたちなのです。
身の程知らずにもほどがありますが、この人の素敵なところを見たいぞという気持ちが大きな原動力となっているのでまあいいでしょう。

とにかく加茂克と江戸川良の場面は、回を追うごとに熟していき、進化していくような。
特に何か芝居を変えるというわけではないのですが、二か月間の稽古中に二人の間の空気がどんどん濃密になっていったような感じでした。それはそのまま、つかず離れず決して仲良しではない、でも奇妙な絆さえ感じさせるような木股とコバカマの数十年の付き合いそのもののような。
なので稽古場でも本番でも完成はせず、もちろん未完成という意味でもなく、二人の人生がこれからも続いていくような、全てに想像と創造の可能性が残されたまま終演したような気がします。
特にクライマックス前の昔語りの場面では、私は毎公演で新鮮な満足感を得ていました。
自画自賛ではないですよ。これは役者の力。
うーん、面白い。

主演の鶴田誠人くんは、肉体的にも精神的にもきっとものすごく苦労したと思いますが、私は自分が苦労したい性質なので(芝居づくり以外での苦労は1ミリもしたくないですが)、彼もそれで何か得ることができてたらいいなあと思います。でないと苦労し損だもんね。
いかにも発条ロールシアターの主役、といった役回りでストレスがたまったことでしょうが、物語自体は、私の書く本にしては珍しく、主役のための話になったかなあというものでした。
とにもかくにもスカウトした甲斐があったってもんです。
私は悩んで考えてぶち壊して再構築してまたぶち壊して再構築して悩んで悩んで悩んだあげくに全てとっぱらって芝居する、みたいなのが好きです。それが発条の芝居だと思っています。
まあ、ちょっと私の考えに合わせすぎた感じはありますが、それによる不自由さも含めて主人公・波多木らしさということで。

そしてもう一人!
結婚・出産を経て再び発条ロールシアターに戻ってくれた小野島由惟!
さすがにちょっと落ち着いた感じもありましたが、うるさくて馬鹿そうで可愛くて素敵な前田説子ちゃんを演じてくれました。お腹も惜しげもなく見せてくれました。
出番をもっと増やしたかったのですが、叶わず。しかし私は小野島がうちの舞台に立っているということだけで嬉しかったのです。
まあ、次回またもし出演してもらえることがあったら、その時はもっとガッツリ出演してほしいとは思います。

私はお客様のために、誰かのために、物語を創りはしません。いや、もちろん考えないわけではないですが、誰かのために物語をつくる、という考え方はあまりしたことがありません。
それは多くの脚本家・演出家に共通して言えることだと思いますが、私はやはり自分のために物語をつくるのです。
そうして私が得る楽しみを、できる限り、更に増幅して、皆様にお届けできてたらいいなと思うのです。


この度はまことにありがとうございました。
また次回お会いする日まで。