真冬の夜の夢のような話

ここしばらく風邪をひいておりません。10年くらい前に姉にもらって寝かせておいたガスファンヒーターをこの冬ようやく稼働させ始め、そのあまりの暖かさに油断して風呂上りに素っ裸で30分くらいゲームしたりしてるのですがそれでもひきません。重い風邪なんて丸一年はひいてないと思われます。

最後に重い風邪引いたのいつだっけなーと考えてるうちに思い出したことがあります。

あれは忘れもしない、と言いたいところだけどいつだっけ。2018じゃないことは確かです。でも2016は日記を読む限り凄い元気にトレント・ハーモンの話で盛り上がっているのでおそらく2017年の出来事でしょう。確か2月の初旬だったのは覚えています。

 

その日の夜、21時過ぎくらいだったでしょうか。私は出先から家まで歩いて40分くらいの道のりを何故か歩いていました。そういう気分だったのでしょう。変な夢みたい。

が、歩き始めて間もなく激しい腹痛に見舞われたのです。

私は20代半ばくらいから何故か1年に1度、激しい腹痛をともなう風邪に襲われるという謎の体質の持ち主となりました。しかも突然胃痛により幕を開けるのです、その風邪は。

この夜も事前に何の兆候も無かったのが突如腹痛に襲われ、それでも初めはだましだまし歩ける程度だったので何とか家まで持つだろうと思っていたのですが、あっという間に動けなくなるほどの痛みに変わってしまいました。

 

痛みの種類としては、賞味期限が3か月過ぎた牛乳を飲んで下痢の症状を起こした時くらいな感じ。そんな経験無いけど。

なんというか、胃を絞られてるみたいな痛みです。それも、3分に1回くらい急激にぞうきんを絞ってくるみたいな。

アニサキスとか尿管結石とかと同程度なんじゃないかというくらいの痛みです。マジで。

病院に行っても「あ、お腹に来る風邪ですねー」と呑気に言われて何度絶望したことか。駅でうずくまって立てなくなったこともあるし、一度なんて痛みに耐えきれず夜中にタクシーで病院まで行って点滴を打ってもらったこともありました。点滴打たれながらも悶絶してたけどね。

とにかく、私にとってはこれ以上の痛みと苦しみは未だ経験したことがないってほどの胃痛なのです。

 

そんな訳で陣痛のように少しずつ感覚を狭めてくるその痛みに(陣痛経験したことないけど)とうとう道にしゃがみ込んで動けなくなってしまいました。タクシーに乗りたいけど捕まえることすら今は無理!みたいな。

歩いていたのが環状八号線という大きな道路だったこともあり、人や自転車がどんどん私の横を通り過ぎていきました。酔っ払いだと思われてるだろうなあと頭の片隅で思いつつもそんなことどうでもいいくらいの痛み。

と、誰かが声をかけてきました。

「大丈夫ですか?」

なんとか顔を上げると、中学生くらいの男の子が二人、自転車にまたがった状態でこちらを見ています。

つい今しがた私の横を通り過ぎた子達が、ちょっと先で止まって戻ってきたようでした。

(って、こんな風に書いてるけど、通り過ぎた自転車なのか新たに逆方向からやってきた自転車なのかは判別する余裕は無かったですけど。イメージ映像)

 

大丈夫か大丈夫でないかで言えば全然大丈夫じゃないんだけど、救急車を呼ぶか呼ばないかで言えばこれは呼ぶ必要の無い状態。ホントにものすごく痛くてこの世の終わりみたいな思いでいるけど救急車案件では無い。良くも悪くも今までの経験上それはわかるのです。この時が初体験だったら迷わず呼んでたと思うけど。痛みに弱いし、私。

自分でもどうしていいかわからないけど、手立てとしては痛みがちょっと引くのを待ってタクシーに乗って家に帰って横になる、くらいでしょうか。ホントは家に帰っても痛い事に変わりは無いのでものすごく憂鬱なんですけど。

で、現状まだタクシーに乗ることはできないくらい悶えてる状態なので、少年たちにやってもらえることは何も無いわけです。

とは言えすごく心配そうにというか、どうしよう…って感じで立ちすくんでいる少年たちに、

「大丈夫です、ちょっとお腹が痛いだけなので」

とヘラヘラ笑いながら言って、笑いながらも痛みに耐え、ちょっと追い払うくらいの勢いで大丈夫と連呼しました。

そこまで言うなら…と思ったかどうかわかりませんが少年たちは帰っていったようです。つーか本人大丈夫って言ってたら心配だったとしても帰るしかないわ。

 

その後、自分がうずくまっていたのがレンタカー屋さんの前だったことに気付いて、とりあえずトイレを借りて20分くらいしゃがみ込み(迷惑)、死に物狂いで最寄り駅まで辿り着きまたトイレに行って30分くらいしゃがみ込み、まあトイレに入っても何も出ないし何か出したとしてもそれで痛みが引くわけでも無いのだけど、万が一ただお腹をくだしてるだけであって欲しいという最後の望みにすがったわけですな。

んで結局その駅から自宅までをタクシーに乗り、家に帰ってぶっ倒れた訳です。

翌朝には嘘のように治ってたのですが、一晩たっぷり地獄を味わいました。

 

んで思い起こしてみると、あの男の子たちはなんていい子達だったのだろうと。回復してから布団の中でちょっとばかし感動したのですよ。

私の知ってる中学生男子は、私の「お腹が痛い」という言葉を受けて、去り際に「なんだ下痢だってよーギャハハ」と笑うような生き物でした。あるいはそもそも道端で困ってる人に声なんてかけないか。

それがっ!なんてっ!なんていい子なのっ!

私があんな余裕の無い状態じゃなければ、もっと声の掛け甲斐のある展開にしてあげられたのに!もうちょい回復してればそれこそ「タクシー止めてもらえますか」とか言って少年たちの止めたタクシーに乗って帰れたのに!ごめんね、何もさせられなくて!

でも、一ミリも余裕が無かったからこそものすごく有難かったのですよ。何より肉体が回復した後の心の慰めになったもの。

 

しかし、今の子供たちってもしかしたら昔の子供よりもいい子になってるのかなあとこの頃思います。

こないだとある通販サイトのレビューを見てたら、

「自分にはちょっと無理めかなと思ったスカートですが、高校生の息子が『いいじゃない、似合うよ』と言ってくれたので買って良かったです」という超絶羨ましいレビューを発見してしまいました。事実かどうかは知らないけど。←羨ましすぎて憎まれ口。

そういえば知人宅でも、知人が風邪で寝込んでる時に息子さんが雑炊を作ってくれた話があったりとか、他のおうちでも家事を手伝ってくれた話を聞いたりとか。

娘さんはそこまで大きく印象変わらないけど、息子さんたちの優しさ度が格段にアップしてる気がします。

うちの甥っ子もいい子だなーと思ってたけど、これはもしや個体差なのではなく全般的にいい子が増えてるのかなと。いい子というか、思春期の照れによって優しくできないという現象が減ってるのかなと。

 

もしかしたら、若い頃は私が耳にする機会が無かっただけで、本当はもっとずっと前から優しかったのかもしれないけど。

もしかしたら、私が子供の頃の憎たらしい同級生のガキンチョ達も、おうちでは家族に優しかったのかもしれないけど。

 

うちの兄も優しいっちゃ優しいところもあったのですが、10歳にも満たない妹に雪の中コーラとポテチを買いに行かせておいて一口も分け前をくれない、お駄賃もくれない、みたいなところがあったのでどうしても優しさのイメージは薄れます。恨みって訳じゃないですが、あの所業はずっと忘れない。ずっと言い続けてやる。

 

ともあれあの夜少年たちが声を掛けてくれた出来事は、可愛さ&感動で、この先もずっと語り継いでいきたいと思います。ありがとありがと。兄から受けた仕打ちのことよりこっちの方が語り継ぐべきことですね。