隅っこにも楽しみが

チラシからもう芝居は始まっている

的なことを言ってた人がいたと思ったんだけど誰だっけ。

こんだけインターネットで何もかも事足りる時代になっても、紙のチラシというものは不思議と廃れないんだよねえ。
的なことを言ってる人もいた。複数いたかも。

まあ確かに楽しいチラシだとウキウキする。
私の場合は紙フェチだからっていうのもある。気に入った内容の本でも使ってる紙が好きじゃないと好き度が下がってしまう程度に紙フェチ。新潮文庫の紙が好き。装丁も好き。

芝居のチラシの紙はペラッペラのよりもちょっと厚みがある方がいいけど、あまりに頑丈で立派なのはあんまり。なんだか落ち着かない。でもデザインにもよるかな。
昔観に行ったファントマの「イエス斬り捨て」のチラシは、ちょっと好みよりも厚手だったけど、手触りが心地良くて赤と黒のシンプルで力強いデザインも好みだった。主演の保村大和さんの演じる岡田以蔵がかっこよくって!!!あれ以来私は岡田以蔵ラブ、新選組嫌い、になったのだった。チラシとともにきっといつまでも忘れないわ、あの保村さんのこと。

それと双璧をなす素晴らしきチラシは、劇団夢現舎の、あれは確か「遺失物安置室の男」のチラシだろうか。いや、別の作品だっただろうか。ボロボロに汚れた一枚のルーズリーフみたいな紙に、ただプリンターで印字しました、みたいなデザイン。あれとっておけば良かったなあ。
おそらく実際ちょっと安価なチラシだったのかもしれないけど、地下のアトリエで上演された芝居の世界観と素晴らしくマッチした良いチラシだった。あれは、まさに芝居の導入部としての役割を果たすものだった。いわゆる普通のご立派なチラシだったらそこまでのインパクトはなかったと思う。
もしかしたら予算も潤沢ではないだろうからこそのアイディアだったのかもしれないけれど、きっとこの劇団はどんなに予算があろうと金が余ってようと、出し惜しみなくああいう面白いアイディアを出すだろうなと勝手に妄想して信用してしまうだけの説得力あるチラシだった。

夢現舎といえばもうひとつ。これも遺失物〜だっただろうか。チケットが木の札だったことがあった。荷物札の木のバージョンみたいなやつ。そこに、予約した人の名前が書いてあるの。私はそれも失くしてしまったんだけど、一緒に行った加茂克は、未だに筆入れにくっつけて愛用している。
小さい公演だったし7〜8年くらい前のことだし、このアイディアをパクってもバレないかもしれないと思っていたのだけど、こうして日記に書いてしまったからもうだめだな。失敗した。
しかしあれは丁寧にやすりがけされてスベスベで。きっとかなり手間はかかってたことだろう。安易に真似したら予想外の苦労をするに違いない。
パンフレット入れが、オリジナルの絵をプリントしたトートバッグだったこともある。劇団の人は、洗濯したら絵柄が落ちちゃうと思いますって言ってたけど、その日観た芝居の思い出を入れておくのには充分だった。

いつだったか観に行った知人の公演が、チケットを作らず、名簿だけのやり取りだった。お笑いや音楽のライブはそれが主流だけど(そもそも演劇の公演とは制作上のシステムから何から違うのだ)、芝居の公演でそれはちょっと違和感があった。芝居でも、バーやスタジオの公演ならそれも有りだと思うのだけど、劇場での公演だったのだ。
なんというか…寂しい。
半券なんて別にいらないじゃないですか、管理できればいいわけだから。という、極めて合理的な裏事情を聞いてしまったから余計に思うのかもしれない。聞かなきゃ忘れてたかもしれないのに。だって私はまさに、半券をとっておかない派なのだから。
でも、大事にとっておいてくれる人も知っている。何人もいる。半券をとっておいて、思い出してくれる人もいる。チラシもそう。
だから、要らないと言われちゃうと寂しいのだ。


夢現舎はアイディアを出し惜しみしないと書いたけど、そもそもひとつの公演において、何か出し惜しみするようなことがあったらその方がおかしいのだ。
チラシもチケットも芝居への導入部であり、芝居の一部なのだ。
もちろん舞台上のあらゆる部分にアイディアがちりばめられて、それが100人中1人しか気づかないようなものであっても。
それら全てを合わせてようやく芝居が完成するのだ。

と、真理を掲げてハードルを上げてみました。

まあ、いろいろ考えたところで、シンプルでオーソドックスなものが好きだったりそれが芝居に合ってたりするならば、地味なチラシやチケットになるかもしれないのだけど。
必ずしも楽しくてワクワクして目新しいものばかりがベストという訳ではないのだけど。

それでも、最終的にそこに行き着くにしてもそこに至る過程で手抜きやアイディアの出し惜しみをするなら、作り手も芝居の楽しみを最初から半分くらい捨ててるようなものじゃないかなと思うのだ。
たとえ綺麗で上手なお芝居が出来上がったとしてもね。

本番まで残り一か月。
今日は自分に対しての独り言的日記。