朝っぱらから理性を捨てるという生き方

私は演出家であるけれど、客の目を持って見ている。それは勿論私でなくともみんな客観的な視点と言うのは持っている。
私が言うのは、こういうのが観たいの!という視点でつくっているという意味だ。
芸術家視点の演出家とか、ビジネスマン的視点の演出家とは、まるで考え方が違うと思う。
(芝居の根っこの大事なことはみんな一緒かもしれないけれど)

うるさいお客なのだ。結構細かいことまでうるさいのだ。
ワガママなお客なのだ。

でもやっぱり本当のお客とは違うので、地獄の底にいるような気持ちで芝居を観ていたりもする。いたりもするっつーか、そういう時のほうが多い。
ちょっと今回はいいなと思った時でも、自分の描いた人物や世界を無責任に語ることはしない。当たり前だ。理性があるのだ。それに、まだまだだなという思いがやっぱり強かったりする。

自画自賛は、なるべく人目に触れないところでひっそりとする。
作り手である私が盲目的に作品や人物を語ることで、ほかのお客の気持ちが冷めてしまうということはあると思う。だからやらない。やらないようにしている。
そんなことやってしまったら、

「は?あそこの団体あんなんで満足してんの?自分たちはめっちゃ満足してるみたいだけどクオリティ激低なんですけど」
「まあ作・演出からしていかにも自己満って感じでつくってるみたいだから、集まる役者の程度も低いんだろうね」
「いいね、あの程度で満足できて。羨ましいわ」

こういうことを言われちゃうんですよ。
おとろしい!役者のイメージまでダウンさせてしまう!

はい、言ったのは私です。私、最低だな。
でもでも、ここまでひどいこと言うのは滅多に無いし!下手くそでも荒削りでも、きちんと作ってるとこにはこんなこと思わないし、若い団体とかにも逆に思わないし!
ちょっと酸っぱいブドウ的な、お前らこんな高い金とってこれかよ!だったらもっとせめて華のある役者くらい揃えろや、セットちゃんと作れや!みたいな、そういう時しか言わないので許して。

しかしチケット代が安かろうが高かろうが、あんまり程度の低い次元で本人達がきゃあきゃあ言ってるのはみっともないのですよ。
ましてや演出家が。

なので最近は千秋楽の打ち上げなんかでもあまり人を褒めたり作品の出来について語ったりしない。
淡々と労い、少しは褒めつつもダメ出しの方が多かったりする。
役者も、他人だから。そして発展途上だから。
他人の前で演出家の本当の心のうちを話すことは得策ではない(と思ってる)し、発展途上の人間をむやみやたらと褒めるのは、本人にとっても良いことではない。だから、稽古場と同じように良かったことを部分的に伝えるにとどめる。

私が常に考えねばならないこと、それは

ちゃんと作品の世界がお客様に伝わったのか。
舞台の面白さというものに最後まで力を尽くしたか。
人物を掘り下げ、その表現をし尽くすことができたか。
何より役者の魅力を充分に引き出すことができたか。

などなど。
未だに満足したことはないのだ。
どんなにやりきったと思った時であっても、きっとその先はあるのだということがわかっているから。


さて前置きが済んで、そろそろ
「ああ今日のブログも長いなー」
と数少ない読み手が目を離してきた頃だと思うので、理性を捨てて語る。


やーっ、伍平治と次吉の二人の場面かっこよかったなーっ。次吉にはどうしても二の腕出して欲しかったから江戸川さんに筋トレ強要したのだ。もう少し欲しかったな。あと脚の筋肉のこと見落としてた。もう少しつけてもらえばよかったな。でもよく頑張ってくれたな。
もっとサラリとした色男にするつもりだったんだけど、なんか男っぽいほうがいいなあとか思いだして。
やー、男はワイルドがいいね。

ワイルドといえば珊助。
珊助、それこそもっとたくましくしたかったんだよ。でも加茂克の限界だな。食べても食べても肉がつかなくて筋肉が太くならない。寄生虫いんのかな。
でもオツムが弱くて直情的ですぐに手が出て情に脆くて、フィクションのキャラクターとして最高。大好き。
今回は漫画的なキャラクターが似合う役者ばかりだったので、ほんと少年漫画だったわ。特に過去。

伍平治は、セリフあやふやな時はあれだったけどきっちり芝居してる姿はほんっと目がいくんだよな。今回の私のツボは、あの明らかな年長者である伍平治と、ほか次吉や珊助が、明らかに若い子たちともみーんなタメ口で喋ってるってとこだ。
後から聞いた話だけど、外交が発達することで集落において決定権を持つ人間が必要になってくるから、ああいう狭くて外交問題もたいして無いコミュニティでは上下関係が生まれないのが普通なんだとか。おお、結果オーライ。
そもそも私、主従関係とか上下関係とか大嫌いでさ。

あ、でも史朗の忠義は嫌いじゃなかったなあ。他が自由だっただけに良かったよね。自画自賛
史朗の衣装はわざと下履きの前ヒラヒラさせてふんどしっぽくした。本当は史朗は着物の上に袴を履いてたんだけど、海に流された時に自分で脱いだかなんかしたんで下履きしか履いてないって設定なんだ。本物の褌の形状はちょっと気になっちゃうからステテコ?サルマタ?状にして、そしてわざわざヒラヒラをプラス。
あの前に垂れるヒラヒラをどんだけ露出するかという事にこだわり抜いて、ホントはもっと肌を見せたかったけど自重して。
史朗はアクション担当でよく足を開くんだけど、その際にどんだけ肌が見えるかを研究して、着物の丈とヒラヒラの長さを吟味した。
海から助けあげられた場面で客席に向かって股が開き過ぎてる時があって、それは細かくチェックのうえ、助け上げ担当者にダメ出し。そんな簡単に股を開いちゃいかん!
チラリズムの観点であのヒラヒラは股間を隠しつつも下着感を増す素晴らしいシステムだったと思うのだ。
変態と言われようとかまわない。男の筋肉はアクセサリー。若くて小奇麗で筋肉のある男子は、ある程度露出させるべき。絶対に。
大河が、四ツ木の役の時は普通なんだけど、史朗になった瞬間に何故か目の下にゴルゴ風の皺が一本入るんだよな。あれ、なんなんだろう。自由自在に出せんのかな。
あと、感情をあまり表に出さない史朗が、次吉にバカにされた時とかに腕に力が入るのね。あれがいい。今回の史朗は、肘から下で語る男(一番筋肉が目立つから)。
わざわざたすきにかけて、細い二の腕を丸出しにしてるのな。あれは少年好みのご婦人向けサービスなのか。違うか。

劇中好きな場面ベスト3に入るのが、次吉が史朗の手枷の縄をぐいっと引っ張るところ。
あれは引っ張るのが他の人間じゃダメ。次吉じゃなきゃ。しかも普通に引っ張るんじゃなく、わざわざ低い位置で引っ張ることで、史朗が身体の自由をより奪われるところがいい。そのまま地べたに転びそうになるのをこらえて足をつく。それがいい。あれは演出の指定。ホントはもうちょいサディスティックに無情に引っ張りたかったんだけど、江戸川さん優しいんだよなー。まあ、まあ。ホントにこけたらあれだし。

今まで男女の色っぽいのは頑張ってやってきたつもりだけど、今回は皆無。
なのでお色気担当が必然的に男子になる。

好きな場面ベスト3の他のランクイン場面は、伍平治がウシオをぎゅっとするところ。一平さんは元々すっごい人に近寄って芝居するんだけど、あの場面はいつも通り近いなーと思ってるうちに突然杉浦くんを抱きしめたんで稽古場でびっくりした。
びっくりして、それでいってもらうことにした。
他にも唐突にウシオの胸倉を掴む芝居が入ってきたり、いやー、いいね。男同士の抱擁とか胸倉掴みとか。いい。胸倉掴みは男女でやるのも好き。どっちが掴むのも好き。そもそも胸倉を掴む行為自体が好き。

女子は、一人ごくまっとうな人物が欲しかったんで、六条とリツはもう無理なので七飯となな江に担当してもらった。本当はもっとがさつでもっと適当で可愛かったんだけど、迷走した結果ちょっとおしとやかになってしまった。もっともっと可愛かったんだよ、本当は。
がさつで適当で気さくで、誰にも惜しみなく愛を分け与え、でも腹立った時にストレートにそれをぶつける女。こういう人は現実世界でも私はすごく好き。いい女じゃありませんか。

好きな場面ベスト3の最後のひとつは、リツが次吉の傍にやってきて、お握りをもらう場面。
セリフも無いし、そもそも稽古場で付け足した場面なんだけど。でも絶対に絶対に入れたかった場面。
動物がエサをねだる、しかもそれを人間の傍で口にするというのは相当な信頼感を持ってるということだから。
大事な場面。どうでもいいけど(笑)
や、だから次吉が刺された時ドラマが生まれるんだよね。

私のつくる芝居、恋とか信頼関係の生まれるきっかけが餌付け、っていうパターンが多いな。

六条は、こんなイヤな奴いないってくらいめんどくさくてイヤな奴。根っこの部分は一番自分に近いかもしんない。自分に近いから、好き。いやー面白い奴だ。
職場にこんな奴いたら困っちゃう。七飯は優しいなあ。

二科は完全お任せキャラ。江戸川さんはやっぱりああいうのが好きなんだな。私も好きだ。
五島はバイオレンス(の筈)。うちには珍しい。一平さんがいたらどんな人物でも出せちゃう。嬉しい。

おいおい主役のことが全然語られてないじゃんか。
それもそのはず。主役が一番損をする、それが発条ロールシアター。
あんまり好き勝手できないし。ああ、だからみんなやりたがらないのか。
でも主役って、どこでもそういうもんだよね。自由じゃねえんだよ、主役ってえのはな。


衣装で心残りなことがあるとしたら、男全員褌にしたかったけど叶わなかったってことかな。
おっさんの褌。
今の3倍くらい筋肉が太かったらそれも有りだったかもしんない。

まあしかし終わった途端に褌欲もおさまりました。
良かった、褌フェチとかに発展しなくて。


うーん、理性を捨ててもやっぱり役者の芝居に関しては語りづらいなあ。見た目のことばっか。や、充分か。
それこそさ、芝居を褒めるということはひっそりやらないとね。
誰も得しない。

結局私の変態嗜好を露呈しただけの日記になった。