「ソンデネヴァ!」

終演しました。
が、終わった気がしない。
何故かっていうとあまりにバタバタで初日を迎えたからだと思うのですよねえ。
まあ、おかげで毎日毎日慣れすぎることなく緊張に包まれていたので自分としては良かったのだけど。他の出演者たちはどうだったんだろう?

何はともあれ終わってしまいました。2度とこいつらに会うことは無い訳です。あるかもしれないけど、その時には別の役者が演じるかもしれないのです。ということは、やはり同じ人物には2度と会えない訳です。

うむ。だからこそ芝居は面白いのだ。と、思いたい。

古代の人達の誇りとか名誉とか守りたいものとかが、私にはさっぱりわかりませんでした。いや、わかりますよ、と言ってはいるものの本当のところでは理解できていない。頭ではわかっていても、それが最優先事項になるということが理解不能というか。主人公・早川くんとまるで同じ意見です。
でも、アイヌっぽい部族の長・ニシパのセリフであるところの、「守らなけりゃならないのは血じゃなくて、そこから生まれたもの」という言葉で、ふっといろいろなことが腑に落ちまして。ああ、そうか、と。
そこから生まれたものっていうのはまあ文化とか風習なんでしょうが。私だって、そう考えたら守りたいものはある。
そんでもって、誰かに何か強要されるのは嫌だもんなあ。それがどんなに正しいことだったとしても、と。

なので、この言葉が生まれてからは、古代のチセにもウラネシにもヨデ助にもカダクラにも、自分の道を選んでいただきました。
全てのものを奪われても、どんな悲劇の中におかれても、自分がどちらを向くのかだけは自分で選ぶ権利が残されます。選択肢は少ないかもしれないけれど。
それが最後の、唯一の、救いと言えるのかもしれないなと。

馬鹿なヨデ助も、最終的には自分で選ぶことができたし。
何もわかっていないチセからもやっぱり自分で選ぶことを取り上げるべきではないのかなと。

民族の誇り、みたいな壮大なテーマかと思いきや、実はものすごく小さな個人的世界での話だったのかもしれません。なんて地味な!

ちなみに早川とカオリと現代の千世以外は、全員あだ名です。

カダクラ→津軽弁で頑な、頑固の意。
ヨデ助→津軽弁で末っ子の意。
ウラネシ→占い師。
チセ→小さい、あるいはアイヌ語で「(あたたかい)家」。ちなみに現代だと小山内千世(おさない・ちせ)、古代だと“幼いチセ”だとか何とか。これは後付けのこじつけですが。
ニシパ→アイヌ語でお父さんとか紳士の意。
オト→アイヌ語で髪の意。当初は髪型をドレッドにするつもりでした。
ミナ→アイヌ語で笑うの意。カダクラに会うまでは笑わない娘でした。

ついでに、カンカイ→北海道だと「コマイ」です。氷下魚ね。美味しいんだよなあ。カンカイってのはサハリンの方の言葉らしいです。

アイヌでは本当の名前を知られると悪魔にさらわれてしまうのでみだりに本名を呼んではならないと言われてたそうです。なのであだ名だったのかな。日本でもそういうのありましたねえ。本名を呼ばないっていうの。

当初カダクラには「アピ」という、アイヌ語で「火の神」の意味をもつ本名を作ってありましたが、そのエピソードを入れると長くなるので割愛というか、設定自体消滅させました。アピはナガスネ彦の兄の、東北に逃げて阿倍一族の祖先となった安比王(あぴおう)を意味してるとか、全て燃やし尽くされたカダクラが実は火の神の名を持っていたとか、そして十三湊で虎視眈々と反撃の機会をうかがった安東氏の祖先であったとか、最初はそれを軸にした話だったのにねえ。
しかしながら、名も無き一人の男の一生という方が個人的には圧倒的に好みにあってます。
だからこそ安藤カオリは安東カオリじゃないんでしょうね。

そういえば「安東さん」が公演を観に来てくださいました。お爺さんから「祖先はあの安東水軍だ」と聞かされていたそうです。こちらは本当の安東さん!

私自身は歴史が苦手なのですが、調べ始めるとやはり面白いです。アイヌ民族もエミシもとっても面白いです。東北の歴史(特に青森)にもロマンを感じます。
ただ、坂上田村麻呂阿弖流為にはあまり興味はありません。阿弖流為はすげーなあとは思うけど、みんなに認められてるから充分報われてるし、殊更私が取り上げなくてもいいよなあ、と。
結局、歴史の渦に消えて行った多くの名も無き人達が好きだってことです。
だから、英雄譚が好きな男とはまるで話が合わない。

そういえばボツになったネタをもうひとつ。
大和朝廷が何時代なのかも知らない早川が「でも俺、幕末は結構わかりますよ」とカオリに言うも、カオリに
「言っとくけど幕末とか新撰組が好きっていうのは歴史好きのうちに入らないから」と言い返されるやり取りです。
私ホント、幕末とか新撰組を好きって人とは分かり合えない気がする。岡田以蔵は好き。

ともあれ終演です。
ありがとうございました。