恋愛の効力

月影先生がマヤと亜弓さんに、
「恋をしなさい」
と言いました。たくさんの恋でもいい、ただひとつの恋でもいい、と。
二人がいずれ演じることになる梅の木の精霊・紅天女という役を演じるうえで必要なことよ、というような意味で言ってる訳ですが、確かに役者にとって恋愛はけっこう役に立つんじゃないかなあと思います。
恋する役を演じるため、というだけではなく。

それも、若いうちなら理性でコントロールできないようなみっともない恋愛を一回くらいはしとくとより良いんじゃないかと私は思う訳です。

ワガママ言ったり相手を振り回したりして自分の愚かさや醜さに気づくのも良し、どうしようもない寂しさや切なさを感じるも良し、嫉妬にかられて訳がわからなくなるのも良し(マヤはこっちかな)。
あるいは相手の人間性の醜さや熱に浮かされてる様を間近で見るも良し(亜弓さんはどちらかと言えばこっちの観察タイプ)、そしてそんな相手からどうしても離れられない自分の弱さを思い知るも良し。
最後は思い切り傷ついて終われれば完璧です。せっかくだから傷ついたフリじゃなく、傷が浅ければ自分でえぐってでも思う存分傷つきましょう。

思い切り自己嫌悪に陥るような恋愛はやっておいて損はありません。とは言えそこでホントに理性が吹っ飛んじゃって二度と芝居ができなくなるようでは本末転倒ですが。

逆に、心があたたかくなる恋愛、互いに相手を思いやる恋愛、ささやかな幸せを感じる恋愛。
こういうのはまあ、別に人生の嗜好品としてやりたきゃ、というかやれるならやっとけばいいんじゃないでしょうか。
きっと生きる喜びにつながるようなあたたかい時を体験できることでしょう。ただそんなステキな恋愛がそうそうその辺に転がってる訳ではないということを知っておかないと、まがい物の夢の世界にも関わらず、
「これはステキな理想的な恋愛!」
と思い込んじゃって、せっかくの自分達の愚かしさに気づかずに何の反省も後悔も得られないまま突っ走ってしまう可能性があります。
それではただの時間の無駄です。

できれば時間が経ってからでも冷静に見直して、それがステキな理想的な恋愛なんかじゃなかったと気づいて悶絶するほど恥ずかしい思い出として心に刻み込む、くらいしないと。

こーいうことを言ってる私は、無論今までの人生でステキな恋愛なんて経験したことがありません。

もう大人なので、そろそろステキな方の恋愛も経験しときたいもんです。