全日本・男子フリー感想

このオリンピックシーズンにフィギュアの話題を出さずしてどうする。
と言う訳で、全日本・男子フリーの感想。
というか、主に高橋大輔選手の感想。

選曲がいい。『道』。映画音楽を使うのは素晴らしい戦略だ。単純に曲の盛り上がりで観客の気分も高まる。名画(すみません、観てません)の主題曲。
出だしの音に合わせて目を覚ます高橋大輔。私の稽古場だったら、目覚めた後のリアクションがあざとい、とダメ出しするところですが、それはさておき。
そのステキな音楽の中、柔らかい曲調、コミカルな曲調、クライマックスに向かう壮大な曲調、それぞれを己から発する空気で表現しているのが凄い。ちょっと『ガラスの仮面』みたいなことを言ってしまったけれど、空気を抱いて滑ると言えばいいのか、例えば両手を広げただけでもその思いが会場中に広がるような、そんな滑り。もちろん表面的に「してやろう」と思っても、そういうことはできない。

実力ある役者がビジネスライクにお芝居していたとする(そういう人がいるかどうか私には未知の領域だけど)。でも、おそらくそこには、その役者が今まで生きていたこと、経験したことが、何もしなくても滲み出るからいい芝居になってるんじゃないだろうか。だから、「わたし、お芝居してます!!」みたいな形の入り込み方をしてなくても、ちゃあんといろいろ伝わる芝居になってるんじゃないかなあと。頭だけじゃなくて感性と言うか人間性で芝居をしているというか。

どうも、「心を込めて芝居しなきゃ」とか言って、何かべたべたぐちょぐちょしたものになってしまう役者さんもいるのだけど、それは結局脳みそだけで「それっぽい気持ちになりきってやってます」ってだけで、それでは人の心を揺さぶることはできない。

心をこめるんじゃなく、魂がこもってないと人には届かないのだ。
どんなにその気持ちになりきろうとしても、本物の、人間の内から湧き上がる叫びは出てこない。
だから人間が演じるのだ。演じる側が生きていないと作品の中の人間も生きられないのだ。

で、話は逸れたようだけどそんなことはなく。
つまり高橋大輔はその域にいるのだ。

アスリートでありながらもその域にいる、そういうスケーターが私は好きだ。
映画一本、芝居一本観るのと同じくらいの満足感と疲労感を感じるような、そんなプログラムなのだ、高橋大輔の『道』は。

結局審査員も人間な訳で、感動を与える演技をしたならばそれは審査員の心を動かさないわけがなく。そこが芸術点(演技構成点)にもつながる訳だよね。